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「皆様、ただいまより、佐々木遼君の追悼式を行います」
佐野の言葉に、会場の全員が立ち上がり、テレビ画面に映された
遼の姿に黙祷した。
黙祷が終わると、舞台に一番近い席に座っていた、景子と
遼と親しかった人達が、次々と献花し、喪主の景子が挨拶をした後
テレビ画面に、元気な時の遼の姿が映されて
スタジオに居る、小原が、その解説をし、あかりと山野が、それに応えた
その映像が一区切りした所で、会場の司会者の佐野が
「今日の追悼式に、素晴らしいゲストを、お呼びしています。
人間国宝、皆川春夫先生です、先生、どうぞ」その声に
羽織袴の皆川が、舞台上に現れた。
「皆川先生、本日は、誠に有難う御座います」佐野は、そう言ったが
会場の皆は、ポカンとした、皆川と遼の接点が、見つからなかったのだ。
だが、佐野は「皆様、今日の為に、皆川先生が、素晴らしい絵を
書いて下さいました、では、ご覧頂きましょう、これです」
舞台の左側に有った、大きな物を覆っていた布を
二人のADが、素早く取り除いた。
テレビカメラが、その絵を映す「おお~~」会場がどよめいた。
海の様な青い空間に、金色の蘭の花が、大きく描かれ
その中心に、白い人の姿が見える。
それに、カメラが、ぐ~~っと寄って行く。
横たわる、女の裸体だった、真珠のように輝く肌の色
赤い花の蕾の様な唇、長い黒髪が流れ、つんと上を向いた
ふくよかな形の良い乳房、神々しいまでに美しい女体だった。
乳房の下に、まるで祈るかのように両手を組み
長い睫毛を閉じた目じりから、一滴の涙が、零れていた。
「なんという美しさ、まさに皆川芸術の、美の結晶です」
佐野が、興奮した声で言った。
遼の大ファンだと、公言していた、あかりが言った。
「この人は、遼様の為に泣いているのね
まるで私達の心、そのものだわ」会場の女性も
全国でテレビを見ている女性も、皆が、そう思った。
だが、一人だけ「違う」と、思った男が居た。
テレビ放送を見ていた、武だった。
これは、蘭子様だ、蘭子様が満足した後の顔だ
悲しくて泣いているんじゃない、あれは、喜びの涙だと。
その涙を、カメラは追った、涙は、金色の花びらに落ち
金色の雫になって、花びらから落ちていた。
絵は、そこで終わっていたが、その絵の下まで、カメラは追う。
丁度、雫が落ちて行くで有ろう所に、金襴の缶ビールが置いて有り
まるで、その雫が金襴の中に、入って行く様に見えた。
カメラは、また上に行き、絵の全体を映した。
舞台上は、薄暗くなり、テレビ画面は、遼の最後の姿
あの、花魁道中の映像になった。
もう、何回となく流されている映像なのに
また、会場に、すすり泣きが広がる、カーーン、、
その会場内の空気を切り裂く様な、拍子木の音がして
舞台の中央に、スポットライトが当たり、昌紀の肩に手を置いた
あの花魁の姿が、現れた。
ドオォーーォーと、会場が、大きな歓声で揺れた。
スタジオの小原が叫ぶ「皆様、ご覧下さい、あの謎の花魁です
昨年、私達が、この追悼式に是非来て下さいと、呼びかけました
その声に、応えてくれたのでしょうか、それにしても、何と美しい!!
この美しさを表す、言葉が有りません」と、興奮しきった声で言う。
舞台は、ぱっと明るくなり、花魁の全体が、はっきりと見えた。
禿になった由香の姿も、傍に居る。
たちまち、ネット上に、その姿が溢れた、今度は男性達も
テレビのスィッチを入れ、かじりつく様に見る。
花魁は、昌紀と共に、ゆっくりと舞台の前まで進み、場内を見渡し
カーーンと言う、拍子木の後、口を開いた。
「遼様の為に、お集まり下された、皆々様へ、厚く御礼申し上げまする」
そう言って、ちょっと頭を下げた。
会いたいと願っていた、あの花魁の姿と、生の声を聞き
皆は、感動して、声も出ない。
花魁は、ゆっくりと後ろに下がると、用意されていた緋毛氈を掛けた
縁台に座った、その隣には、さっきから、皆川が座っている。
会場の皆も、テレビの前の皆も、これから何が起こるのかと
息をつめて見守る。
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