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花魁は、さっきの映像の様に、煙管を持ち、飲む真似をして
カンと、煙草盆に打ち付けた。
禿の由香が、お盆に乗せて来た、細長いグラスを皆川に
金蘭の缶ビールを、花魁に持たせた。
花魁は、その缶ビールの名前が、正面に来て、カメラに良く映る様に持ち
カーンという拍子木の後「おひとつどうぞ、金蘭でありんす」と
皆川のグラスに、とくとくと注いだ。
皆川はグラスを、花魁は金襴を、ちょっと持ち上げて会釈を交わし
ぐっと、一気に飲み干した皆川は「旨いっ」と言った。
会場から拍手が沸く、テレビで何回も見た、あの光景と同じ事が
今、目の前で行われている、それに、自分も参加している
その事に、大きく感動していた。
皆川の方に向いている、花魁の横顔を撮ろうと、近付いたカメラに
ちらりと、花魁が目をやった。
テレビを見ていた男、全員に鳥肌が立つような、妖艶な流し目だった。
花魁は立ち上がり、昌紀の肩に手を掛け
一緒に立ち上がった皆川の手を引いて、カンカンカンという、拍子木の後
「それでは皆様、おさらばでありんす」と言った。
その声が終わると同時に、舞台の照明がすべて消え、真っ暗になった。
その中で「先生、有難う」蘭子は、素早く皆川の頬に
別れのキスを贈り、履物を脱ぎ捨てて、衣装の裾をたくし上げ
楽屋へと走る、その履物を拾って、昌紀も後を追う。
楽屋に入ると、一足先に帰っていた原田が、蘭子のカツラを外し
もう、メイクも落とし、掃除の小母さんの格好をした
由香と照子、二人が着物を脱がせ、部屋の隅に用意していた箱に入れる
原田が、メンテナンス用の、大きなランドリーボックスの
台車の前に立ち、昌紀はその中に入り、襦袢姿の蘭子を、抱え上げて
一緒に、中へ座った、照子がその上からシーツを掛け
二人の姿を隠した、由香と照子は、手にモップと、昌紀と蘭子が着て来た
服を入れた紙袋を持ち、マスクをした三人は、誰も居ないのを確かめて
台車を押した原田を先頭に、外に出た。
外には、メンテナンス会社の車が、後ろのドアを開け
タラップを付けた状態で、置かれていた。
その中の、他の荷物の間に、台車が動かない様に押し込む。
由香と照子は、もう、座席に座っていた。
原田も、運転席に飛び乗って、あっという間に、会場から離れた。
その頃、消えた花魁を探して、カメラは、場内をうろうろしたが
その姿を捉える事は出来なかった。
場外へ出れば、場外でテレビを見ていた人達の目に触れる筈だったが
花魁どころか、禿や男衆の姿さえ見なかったと言う。
スタジオでは「一体、何がどうなったのでしょう、謎の花魁は
どこへ消えたのか、場内の佐野さん、何か分かりましたか?」と
小原は、佐野に呼びかけた。
「それが、何も分かりません、気が付いたら
誰も居なくなっていたんです、ねぇ先生」
困り果てた顔で、佐野は、皆川に助けを求めた。
「そうですな、私にも、さっぱり分かりませんが、謎の花魁に
手を取って貰ったのは、私だけでしょうな、真に嬉しい事であります」と
皆川は、にっこり笑った、スタジオの小原は
「皆川先生、実に羨ましい、、あ、失礼しました」小原は、気を取り直し
「一体、あの花魁は、遼様と、どんな関係が有るのでしょうか
市川酒造の関口さん、あの花魁の事について、お話し願います」
関口も、困った顔で「私にも、何も分かりません、今回の事は
全て、大京さんにお任せしていました。
あの花魁も、大京さんが、見つけてくれたのかと、思ったのです」と
言った「でも、あの花魁は、金蘭を宣伝するような事をしましたよ」
「今回は、追悼式という事で、CMは、一切入れないと言う約束でした。
それで、大京さんが、サービスしてくれたのかと思ったのです」
「なるほど、では、この番組のプロジューサー瀬川さん
これは、貴方が仕組んだ事なのですか?」
聞かれた瀬川は「皆川先生の絵は、私がお願いしました、しかし
そこに、花魁が出て來るなんて、全く知らない事でした
もし知っていたら、私も、会場に行っています。
私だって、あの花魁を探し続けていた、大ファンなんですよ。
私が居れば、もっと長く、花魁を引き留められたのに」と、惚けた。
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