豊の為に

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小原は、困ってしまい「しかし、花魁は居なくなった、これについて どう思いますか、山野さん」と、仕方なく山野に話を振った。 その山野も、あの花魁の流し目に、心を鷲掴みにされた一人だった。 山野は「いや、謎の花魁は、やはり謎で良いのでは有りませんか 今日会えたことに、感謝しましょうよ」と、柄にもない事を言った。 そうだ、謎の花魁は謎で良い、山野の、この言葉は皆を納得させた。 遼の為に、最後に鎮魂歌が歌われて、追悼式は終わった。 空前の視聴率を叩き出した追悼式の番組 瀬川には、社長賞が出る事が決まった。 その頃、原田達は、大塚へ向かって車を走らせていた。 ボックスの中で、後ろから蘭子を抱いている昌紀は 久し振りの蘭子の柔らかな体と、懐かしい匂いに心が揺れた。 だが、由香の事を思い、ぐっとその心の揺れを抑えた。 それでも、耳元で「蘭子」と小さく呼んだ。 その声は、蘭子の中に、心地良く沁みる、体を預けたまま 「もう一度呼んで」と、甘えた。 大塚に着き、次々にシャワーを浴びたり、化粧を落としたりして 一息つくと「皆さん、本当に有難う、今日は鰻でも取りましょう」 蘭子の言葉に、四人は目を輝かせ「良いね~」と、言った。 特上のうな重と、肝吸いが来た。 「あれっ、一つ多いよ」と、昌紀が言う 五人なのにうな重は、六個あった 「それは、昌紀さんのよ、一つじゃ足りないでしょ」蘭子の言葉に 「やった、由香、半分こしようぜ」と、昌紀は由香に言った 由香は、体は小さいのに、食欲は旺盛で昌紀と同じくらい食べる。 「うわ~嬉しい」と、由香も大喜びする。 五人で、わいわい賑やかに、楽しく過ごし、蘭子はマンションに帰った 遼の写真を目の前に置き 「おにぃ、もう一年経ったのね、私の中では、つい昨日の事の様なのに」 そう言いながら、静かに涙を流した。 謎の花魁、再び現るの報は、またも全国に広がり、花魁の姿が テレビや雑誌、ネット上に溢れた。 花魁が手にしている金襴も、自然に人の目に残り、まだ暑くもないのに 金襴を求める人が増えた、一度飲めば、その美味しさにリピーターが増え あの「おひとつどうぞ、金襴でありんす」という場面を加工し CMにして流した事も有り、金蘭は、他社を押さえ、あっという間に 売り上げのトップに立った。 これが、蘭子が言った、最後のあがきの結果だと知っているのは あの会議に出席していた、市川酒造の身内だけだった。 高倉が、マンションにやって来た。 蘭子に最後の書類の確認をして貰うと「蘭子様、これですべて終わりです 恋人さんの所へは、いつでも出発できます」と、言った。 「おや、高倉、随分鋭くなったじゃない、私に恋人が出来たって 何時分かったの?」「旅行から、お帰りになられた時です とても充実した、お顔をされていましたから」 蘭子が淹れた、珈琲を飲みながら、高倉は、にこにこして言った。 「明日にでも、出発したいけど、お前、これからどうする?」 「ご心配なさらないで下さい、どこかの会計事務所にでも就職します」 「今は、就職難でしょ、自分で事務所を開いたらどう?」 「恥ずかしながら、私の財力では、とても」「そうか、お前も大変だな」 「それはそうと、このお部屋はどうなさいますか?」 「ああ、ここは兄の形見みたいな物だから、このままにして置くよ 時々、ハウスクリーニングを頼んでくれ」「はい、分かりました」 「もしかしたら、振られて戻って来るかも知れないからな」 「何をおっしゃいます、蘭子様が見初めたお方です 絶対待っていてくれますとも」 「お前が太鼓判をしてくれるなら、大丈夫かな」「大丈夫です」 高倉は、蘭子を待っていない男など、居る訳無いと思った。 そして、今夜が、蘭子との最後の夜だと思うと、悲しかった。
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