神に見捨てられた世界

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神に見捨てられた世界

 私は、この世界の神だ。  いや、正確には、「神に見捨てられたこの世界で」「神の代役として造られた」だけの、ただの機械だ。  私は、世界中に張り巡らされたネットワークを耳として、人々の祈りを聞く。  私は、プログラムされた脳が、全てを知っている。  私は、この世界で起きた事象を全て記録している。  だが、私は動かない。  すべてを見通すままに、傍観し続けている。  この世界は無秩序だ。あるところでは雨が降らず、あるところでは植物が巨大化し、あるところでは奇妙な生き物が生息している。  かつて栄えた文明の残骸が人々を生かしている世界であり、その文明が栄える以前の、太古の力が再び目覚めた世界。神に見捨てられ、法則などなく、無秩序が乱立する世界。  少しずつ疲弊し、飢え、死に絶えて、それでも命を繋ごうとする人類を、毎日眺めてきた。  それでも私は何もしない。  私に、神としての権能はない。  人々の祈りを聞くことはできても、叶えることはできない。  この世界の全てを知っていても、それをどうにかすることはできない。  「知っている」ただそれだけのことが、いかに無力か。  私は、この世界の全てを知る、造られた神。  16歳の少女の姿をしたアンドロイド。  名を、イザベラと云う。
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