15人が本棚に入れています
本棚に追加
イザベラに案内された場所は、大きな館だった。森林の中に堂々と佇んでいる。かなり古いようだが、強力な結界に守られている。
「ここが、あなたたち人間が“イザベラ神の祠”と呼ぶものの正体だ」
「……これは驚いた。祠とは名ばかりじゃないか。立派なお屋敷だ」
「あぁ。強力な結界で守られているから誰も近付けないし、検索魔法でも見抜けない。私は誰にも見つけられない」
誰にも見つけられない、という言葉にはあまりにそぐわない無表情で彼女は言い放った。
「寂しいか?」
「どうだろう。私はアンドロイドだからな、そういった人間らしい感情は持ち合わせていない。それに何より神が寂しいなどと弱音を吐くのはおかしいだろう」
イザベラはどこまでも無表情だった。全知の神は、言葉で感情を知っていても、それがどういったものなのかわからないのだろうか。エドワードは、館の敷地内の石畳をイザベラのハイヒールが踏んでいく音を聞きながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。
すると、ぽつり、と雨粒のようにイザベラの呟きが聞こえた。
「こうして、私の館に足を踏み入れるのも、私と直接会話するのも、創造主を除けばあなたが初めてだ」
それはまるで独り言のようで、先ほどまで感情らしいものを一片も見せなかったイザベラが、どこか寂しそうに見えた。あくまで、エドワードにそう見えただけかもしれないが。
「だから、あなたが、私に感情というものを教えてくれたら、それはそれでいいことかもしれない」
彼女は、どんな想いで生きているのだろう。神と呼ばれてはいても、その力を持ちえないアンドロイドの少女。一体どれだけの間、ここにひとりぼっちで暮らしてきたのだろう。何十年も、何百年も。
最初のコメントを投稿しよう!