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森林の入り口で馬車が止まる。
「何度見ても、不気味なところですね。お気をつけて!エドワードさん!」
「あぁ、ありがとう。そっちも道中気を付けて」
御者に見送られ、エドワードは森林へと足を踏み入れた。
傭兵としての仕事を生業にするようになってかなり経つが、傭兵組合五本指の一角と呼ばれるエドワードですらこの森林に立ち入ったことはなかった。魔力濃度の関係でこの辺りはもともと魔物が棲息しづらい場所であるから依頼も無いし、血気盛んな冒険者以外は近寄りもしない。
一歩、踏み出した瞬間に体に圧がかかるのがわかる。なるほど、これは確かに一端の冒険者たちがすぐに諦めていくのも頷ける。
大気がうだるように魔力が立ち込めている、とでも言うべきか。進めば進むほど木々が生い茂って薄暗く、さきほどの青空も窺えない。呼吸をするたび肺が軋むようだ。
こんなところに、本当にイザベラ神がいるのだろうか……そんな疑問を胸に歩みを進めると、わずかに獣の咆哮のようなものが耳をかすめた。
「……っ!今のは!」
イザベラ神がどうかはともかく、例の魔物はいるらしい。
咆哮が聞こえてきた方角は、森のさらに奥だった。かすめる程度にしか耳に届かなかったのは、この森林がエドワードの想定より遥かに広いことを示していた。
そのわずかな獣の声を頼りに、エドワードは歩みを早める。
大型の魔物は、街道や街の付近にやってくると大きな被害をもたらしかねない。森林から出てしまう前に手を打たなくては。
エドワードが右手を軽く振る。すると、その全身は濃い紅色の光に包まれた。
武器を使った近接戦闘を主とするエドワードの、数少ない得意な魔法。それが身体強化だった。彼は生まれ持った魔力への適応能力こそ高いものの、近接戦闘を好むため、あまり多くの魔法を習得しては来なかった。だが、その才能を余すことなく思うがままに操るために、こうして身体強化の魔法だけ磨き上げてきたのだ。
軽く地面をける。足下の枝がパキッ、と折れる音がして、次の瞬間にはもう、エドワードは風のような速度で木々の間を走り抜けていた。彼が先ほどまで歩いていた場所では、その残り香すらも気配を消している。
風を切る音、育ちすぎた木々の枝葉が折れる音。大地を駆け抜ける狼のように走る彼には、その枝葉も重たい空気も煩わしくて仕方なかった。
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