傭兵エドワード

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 どれぐらい走っただろう。魔力濃度も上がり、息苦しさも増す中、エドワードの鋭い瞳がついに標的を捉えた。  __見えた。  口もとをニヤリと歪ませる。戦いに関して言えば彼はその外見の美しさからは想像もつかない残忍さを持ち合わせていた。特に、一般の傭兵や兵士には手出しのできないような強力な魔物を相手にする時は。  標的との距離を詰めながら、帯刀した刀剣に手を伸ばす。エドワードにしか握れない、曰くつきの、極東の国で打たれた日本刀というものだ。細身の刀身は緩やかに反り、わずかな光すらも集めて美しく輝く。この刀が打たれた国はもうない。この世界が神に見捨てられたころ、疫病で滅んだという。その疫病絡みの曰くつき。それが、もう何年もエドワードの手に収まっている。  彼が見据える標的は、八メートル前後の人間のような姿をした魔物……巨人族だ。巨人族の中ではどちらかというと小柄だと思われるが、彼らは滅多に人間の住む地域の近くには姿を見せない。この大きさでも十分な脅威だった。  なるほど、これは確かに異常事態だ。エドワードは至って冷静に状況を判断する。巨人族は突然変異で生まれる魔物の大型種とはわけが違う。カーシーの推測は外れたわけだ。一体どのような経緯でここに奴が姿を現したのか、しっかりと調査する必要がありそうだ。  巨人はその後姿だけでも十分な威圧感を発していた。周囲の禍々しく重苦しい魔力と相まって、とても強大な敵に思える。だが、あくまでそう「思える」だけだ、とエドワードは笑みを一層深めた。彼にとっては巨人だって格好の獲物。  十分に距離を詰め、足に力を込めて地面を蹴り飛ばす。巨人はまだエドワードに気付かず、無防備な背中を晒している。  __できることなら、この一撃で!  高く跳び上がったエドワードは、巨人の背後に肉薄する。相棒の刀を抜刀するとともに、その大きな背中に一撃を浴びせる……はずだった。 「っ!まずい!」  全身の毛が逆立つようなおぞましい気配をすぐ近くに感じる。このままではいけない、こいつから距離を取らないと!エドワードは刀を抜く直前で姿勢を変え、巨人の背中を蹴り、後ろに跳んだ。  すると、次の瞬間、巨人の身体が眩い光と地響きのような轟音と共に、爆発した。  結界魔法を張り、爆風を防ぎながらエドワードは後退する。それでも至近距離での大きな爆発は結界の一部を裂いて、エドワードに熱風と土埃を浴びせた。飛んできた小枝が頬を浅く切った。
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