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03
歩くのは苦労しないくらいの程よい混雑の通路を歩く。タイムセールの札を持った店員の元気な呼び込みを耳に入れながら、目当ての店を目指した。
さっきの場所から離れた俺たちは、数駅先のショッピングセンターへとやって来た。今度は俺が行きたい場所に行こうと言われて選んだ場所だ。
俺にそう言ってくれたオーウェンは、物珍しそうに、店頭に並ぶ服や、行き交う人、自由に走る子供を見ては瞳を和らげていた。
「こっちに来てしまったのは予想外だったが、こうして実際にユキの世界を知られるのは良いな」
「そっか、良かった」
オーウェンは俺から聞いていたこっちの世界を実際に見ることが出来て、そして王子ではなくひとりの人として過ごせることを楽しんでいるようだった。
生まれてからずっと一国の王子として生きて、王子として接されてきたのだから、普通の人として対応されるのは新鮮だろう。
「あ、着いた、ここだ」
通路の途中に現れた店の前で足を止める。眩しいきらびやかな光、落ち着いていて上品な雰囲気に、緊張しながらも足を踏み入れた。
大丈夫だ、隣にはこういう物に慣れている王子がいるんだし。
「ユキは普段宝石類を付けることは少ないから、こういった物には惹かれないのかと思っていた」
「特別好きってわけではないけど、欲しい物があって」
俺たちが入ったのは本格的なジュエリーショップだった。照明の照らすショーケース内には、ネックレスやリング、ブレスレット等が並んでいる。
確かに俺は普段城で過ごす時はあまり宝石類を付けない。オーウェンからの贈り物のアクセサリーはどれも高価な物だとわかりきっているため、汚してしまうのではないかという恐怖で、使うのはパーティーや城への来客の時が多かった。
「いらっしゃいませ。お探しの物がございましたらご案内させていただきます」
すぐに、しかし俺たちの邪魔にならないよう注意を払いながら、白い手袋をはめた男性のスタッフが声を掛けてくる。
「ペアリングを探しているんですけど、今日このまま持ち帰りできる物ってありますか?」
緊張を隠さずに探し物を伝えた俺に、そのスタッフは爽やかな、優しい笑みを浮かべた。
「はい、ペアリングでしたらこちらにございます」
案内されるまま移動した先のショーケースには、シンプルな物から宝石の付いたゴージャスな物まで、様々なリングが並んでいる。
突然の来店でその日に持ち帰る、となるともしかしたら無理かもしれないなと思っていたから、いくつかの種類から選ぶことが出来て安心した。
「オーウェンはどれが気になる?」
「そうだな……このあたりだろうか」
「あ、俺もこれがいいかなと思った」
オーウェンと俺の指がさしたのは、銀色に光るシンプルなリングだった。
宝石は付いておらずシンプルではあるが、細身で丸みのあるデザインが柔らかさと上品さを醸している。
「こちら在庫をお調べ致しますね。刻印のサービスもございますが、いかがなさいますか?」
そこまで考えていなかった俺は、どうしようかとオーウェンと顔を見合わせる。せっかくならと意見が一致した俺たちは、笑顔で待つスタッフに頷きを返した。
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