かみさまのたったひとりのおひいさん

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 高校は家からバスで通えるところにした。  入院している祖母の病院も高校から近く、学校帰りに祖母の様子を見て家に帰る。  その頃から、家の近くで尾の長い鳥をよく見かけるようになった。  ふと碧が視線を向けると鳥は空高く舞い上がり、碧の上で大きな円を描いてから山の方へ飛んで行くのだった。  そして十六歳の誕生日を一ヵ月前に控えた日の夜、病院からの電話で碧はタクシーで祖母の元へ向かった。  慌ただしく人が出入りする病室の前で、碧はしゃがみ込んで神様に祈った。  コツ、と目の前に立つ足音に顔を上げると、どうしてかずっと忘れていた神様が、目の前に立っていた。 「かみ、さま……」  周囲の人々には見えていないのか、この場には異質な男の姿に誰も目を留めない。  ほろりと涙を零す碧の頭を一撫でし、男は碧を長い着物の袖の中に隠した。 『その願いは、聞き届ける事が出来ない』  頭の中に響く声に、碧は唇をぎゅっと噛み締めた。 『人の命は、決められた長さで尽きてしまう。其れを超えるならば、其れは最早人とは呼べないものになってしまう』  分かっていても、碧にとって祖母はたった一人の家族だった。  言葉少ない人であったけれど、それでもたった一人、側にいてくれた人だった。 『碧、碧には私がいるよ。さぁ、いっておいで』  男はふわりと碧を抱き上げ涙を袖で拭ってやると、病室の前へ立たせた。  祖母の横に立っている医師や看護師は、碧に悲しそうな視線を向ける。  歩み寄って手を握ると、祖母の手はまだ暖かかった。しかし、ぎゅっと握り締めても握り返してはくれない。  無機質な機械音の中、医師は碧に祖母の死を告げた。
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