かみさまのたったひとりのおひいさん

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 朝ご飯を食べていると、祖母を訪ねて来た人と祖母が玄関で立ち話を始めた。 「大きな鳥が山にいたんだって」 「まさかコトリ様が……」 「こっちには下りて来てないといいけどねぇ」 「あおちゃんいくつになった?六つまでは取られるからねぇ」 「隠すったって、まさか納屋に鍵付けるわけにも……」  漏れ聞こえる声に、碧は小さな怖さを感じていた。  話が終わった祖母は碧の前に座ると、厳しい表情で見つめてくる。 「何度も言うけれど、絶対にお外で名前を聞かれても答えちゃいけないよ。年を聞かれたら七つと答えて家に帰って、戸を開けてはいけないからね。いいかい?」  コトリ様は、七つ以上の子は取れないし、自分で戸を開けられない。だからもし名前や年を聞かれたら家に逃げなさい。  それはこの村で暮らす子供が皆厳しく教えられることだった。  人は自分で戸を開ける。開けられないのはコトリ様。誰の声がしても、自分で戸を開けられないのを招き入れてはいけない。  よそから来た碧に、祖母は何度もそう言って聞かせた。 「ばぁば、ことりさまは、どんなの?」  碧の問いに、祖母は眉間に皺を寄せた。 「コトリ様は、六つまでの子供にしか見えないんだよ。七つになると、見えてたことも忘れてしまう。けれどね、コトリ様は必ず名前や年を聞くからね、どんな姿をしていても教えちゃいけないからね」  そう言い含められ、碧は一つ頷いた。  そして祖母はまた畑へと出掛けて行く。  碧も準備をして神社へ向かった。  昼間は皆畑に出ていて誰も道を歩いていない。子供は保育園に預けられるので、碧と出くわすのは野良猫か雀かカラスくらいだ。  鳥居の前まで来て、碧はぴたりと足を止める。  今朝の祖母の話が、頭の中でぐるぐると渦巻いていた。  怖い。そう思っているはずなのに、行かなければならないような気もして碧はゆっくりと足を踏み出した。  教えなければいい。家に逃げて、戸を開けなければいい。  どきどきする胸をぎゅっと押さえて、石段を登りきる。  男は社の前に片膝を立てた半胡坐のような恰好で座っていた。  ばさりと音を立てて男が腕を広げると、碧は吸い寄せられるように歩み寄り、足の間に腰を下ろした。  碧の髪を撫でながら、男は優しく口を開く。 「おひいさん、今日は元気が無いね」  見透かしたような言葉に、碧は思わずぎゅっと手を握り締める。 「それじゃあ、今日はおひいさんが此処に来てくれたお礼をしよう」  懐から絹の布を取り出し、碧の目を隠すように巻き付ける。 「おひいさんはどんな鳥が好きか思い浮かべてごらん」 「とりさん……」  ふと、碧の頭に浮かんだのは、庭に来る雀であった。 「なるほど、ではこうしよう」  ぱん、と男が手を叩くと、碧の頭の中の雀は真っ白で飾り尾の付いた鳥に変わった。 「きれい……」 「さぁ、羽を伸ばして」  男が碧の腕に触れると、碧は本当に腕が羽に変わったように思えた。
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