神さまだらけのアパート

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「それで、対処法なんだけど……」 「対処法とかあるのっ?」 「あぁ。とりあえず蚊取り線香を買うんだ」 「蚊取り線香?」 「そう。寝る前に枕元に蚊取り線香を置くと、大抵の神さまは追い払えるぞ」 「神さまなのに蚊と同レベルなの!?」    想像以上に適当だけど、やけに現実的な対処法だ。  それにしても、神さまをを虫扱いとは、やっぱりここのアパートの住人の感覚はどこかずれているというか、図太い。この対処法を思い付いた人も、それを信じて広めた人たちも、ある意味すごい。 (蚊取り線香を置くだけで追っ払えるなら安いもんだ)  その後、早速対処法とやらを実行するべく、タカ兄と共に近くのスーパーで蚊取り線香を買いに行った。  そして言われた通りに寝る前に設置したのだが、かなり効果はあった。朝起きて確認すると、いつもよりも被害が大分減っていたのだ。  そこで、蚊取り線香をもう二つほど置いた。そして見事、効果は倍増した。    だが、あいつにはどうしても効かないようだった。   ***    目玉焼きを作ろうと、フライパンを出したら、また巨大トカゲが現れた。今度はいつの間にか足元を這いずっていたので、どこから現れたのかは分からない。   「ふんふんふーん……よ。ふふふーん」    鼻歌を口ずさみながら、チラリとトカゲに目をやる。一度目を離し、卵をフライパンの上に落としたところで、またトカゲを見る。既に消えていたり部屋をのろのろとうろついていたりと、その日によってまちまちだ。今日はまだ居座っていて、とろくさい動きで部屋の中を這いずっている。   (相変わらず平和なやつ……)    ここに住み始めてから一週間とちょっと。朝、フライパンを使っている時にトカゲが現れることが、当たり前になりつつある。   (あいつ、いつもこの部屋に何しに来てるんだろう)    もしもし亀さんの如くのろのろと、何の目的もない様子で部屋中をうろつき、時々チロチロと舌を出す。  見慣れたからというのもあるが、最近、その動作が可愛く見えてしまう。   (ぶっちゃけ、何も考えてないかもしれないけど)    何だかおかしくて、思わずプッと声を漏らした。  別にあいつを特別扱いしているわけではない。他の神さまと違って害がないというのもあるが、やはり最初に見た時のインパクトが大きい。フライパンの上で寝る巨大トカゲなんて、きっとここを出たら見ることはないだろう。   「……ちょっとトイレ」    ふとそう呟き、火を止めて台所から離れた。別に寂しいからとか、話す相手が欲しいから心の声を口に出すわけではない。元から、こういう癖なのだ。  台所の近くにトカゲがいるが、何の害もない。放置したところで問題ないだろう。実際、今までがそうだったのでこの日もそう判断したのだ。    しかし神さま、されど神さま。やっぱり油断は禁物だった。    ムシャ ムシャ ムシャ   「…………」    食べてる。   「…………」    もりもり食べてる。   「…………」    目玉焼きをもりもり食べてる。   「…………」    トカゲがフライパンの上で、目玉焼きをもりもり食べてる。   「…………」    ムシャムシャムシャムシャ    「――――てめぇええええええ!!」  ふざけた神さまを排除しようと殺虫剤を手にする。わたしの殺気をいち早く察したのか、攻撃に出る前に目玉焼きと一緒に消えやがった。 「どちくしょうが!! 玉子だって馬鹿にならないのにいいいい!!」  無害だろうと高を括って、あまつさえちょっと可愛いなんて思ったわたしが馬鹿だった。  今度からは神さまは徹底的に排除しよう。そう胸に固く誓った。  神さまとの日々は、まだ始まったばかり……これでかよ。
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