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「どうしたの?」
その変化を、当然わたしは見逃さなかった。すかさず、「まさか、マジで出るとか?」と更につついてやる。
「いや、幽霊は出ないと思うけど……」
(何だ何だ、本当にどうしたタカ兄!)
珍しく冷静さを失っている彼を見て、わたしの中の好奇心が踊りだした。「何それ、気になる!」と声を張り上げる。次の反応が楽しみで仕方なかった。
だが、タカ兄はそれ以上幽霊アパートの話はせず、「何でもないよ」と話をすり替えてしまった。
(その爽やかな笑顔、反則だろ。カッコ良すぎ!!)
「駅とスーパーに近いから便利だし、家賃はかなり安い。シャワールームはないけど、歩いてすぐの所に格安の銭湯があるから生活に困ることはないよ。四畳半だから窮屈に感じるかもしれないし、あんま贅沢は出来ないけど」
「良いよ。そもそもわたしがその条件で出したんだし」
そんなことより、幽霊アパートの話を遮られたことの方が不満だ。不満ではあるが、どうせこれから住む場所なのだ。嫌でも知ることになるだろう。
今日のところは、今度あちこち連れて行ってもらう代わりに我慢してやることにした。何せ、わたしは心が広いのだ。
そうして十分ほど歩いた所で、タカ兄が立ち止まった。
「ここだよ」
「…………」
アパートを見た瞬間、わたしは石のごとく固まった。
一言で表すならば、廃墟。薄汚れていて、故郷の町でもよく見かけた部類の建物だ。だけど、それだけじゃなかった。
(この不気味さは、一体……)
悪霊にでも呪われているのだろうか。凡人のわたしでも思わず引いてしまうほど、嫌な空気が全体に行き渡っている。
「驚いたろ?」
わたしはアパートから目を離さず、首を縦に振った。
「……大家さん、よくこんな不気味なアパート買ったね」
「変わった人でさ、子供の頃からお化け屋敷に住むのが夢だったらしい」
「と〇りの〇トロのお父さんかよ……」
大家さんの妙な趣向にツッコミを入れつつ、タカ兄に導かれるがままアパートの中へと招かれた。
薄気味悪い幽霊屋敷だった。冗談ではない。文字通りの意味だ。
(これ、アパートだよな?)
この先には古びた階段があって、そこをアアアアと不気味な声で這いずりながら下りてくる某怨霊がいる……なんて展開があっても違和感がない。そんな馬鹿なことを考えてしまうほど、日本のアパートとは思えないほど、陰気な空気が充満していた。
(幽霊、ねぇ……)
板張りの廊下を踏む度に、ミシリと嫌な音を立てた。
何とも言えない緊張感と寒気が、わたしの背筋をぞわりと撫でる。ほんの少しの恐怖心と好奇心がぐるぐると頭の中で混ざり合っている。
タカ兄が話すのを渋ったのも無理はない。いくら身内とはいえ、年頃の女の子に紹介する物件ではない。
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