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「……ちなみに、被害の具体例とかある?」
「最も多いのは、冷蔵庫の中身を持ってかれたり、食事をかっ攫われるパターンだ」
「神さまのくせに食い意地張り過ぎだろ!!」
「そのせいで、半端な精神力の持ち主だと、ちょっとしたノイローゼになるんだ。そんで『もうこんなアパートは御免だ!』って出て行くわけで」
「マジかよおい!?」
「食は生活に直結してるからな。無理もないよ。被害のほとんどが食い物関連だからか、住人の間では<神さまの台所>なんて通称があるくらいだし」
「通称だけ聞くと高尚な気がするな!! そんな所を可愛い従妹に紹介したんかい!!」
「従妹だからこそだよ。身内だから、こんな厄介な場所を紹介出来たんだ。実際、ここより良い物件が見つからなかったわけだし」
「う……」
そもそも、このアパートを紹介してくれるように仕組んだのが、他でもないわたし自身だ。何も言い返せない。
「それに、ユキの精神力は鋼以上だと見込んで紹介したんだ。その証拠に平然としてるし」
「いや、かなり参ってんですけど!?」
「その様子ならまだまだ大丈夫。本当にノイローゼになってたら分かるよ。目がイってるからな」
(……あぁ。優しくてカッコいいタカ兄がおかしなことを口走っている)
大好きな従兄の新たな一面を垣間見てしまったわたしは、少し泣きたい気分になった。こんな所で平然と暮らしているのだから、おかしくなるのも当然かもしれない。
「でも、話聞いてるとまだ被害少ない方だよ。酷いところだと、二十四時間体制で悪戯されたりしてるらしいからな」
「コンビニかよ……」
(どんだけ暇なんだよ神さま。つーかその人……気の毒過ぎる)
「ちなみに、俺も被害は少ない方だ」
「え、そうなの?」
「あぁ。昔ここに入居して間もない頃、『君は身にまとっている羽衣が人より輝いていて、幽霊や怪異の類に敬意を払われるんだよ。畏れ多くて悪さが出来ないってところかな。まさに、貴く朗らかという名にふさわしい体質だね』って、住人の一人に言われたんだ。多分、ユキも俺と同じ部類に入るんだと思うよ」
「頭のイカレた中二病じゃねぇか。タカ兄、よく話聞いたね」
「まぁ、ここに住んでる時点でその手の存在を否定できないわけだし」
「なるほどね……」
よく分からないが、文脈から察するにオーラみたいなものだろう、多分。
「でもまぁ……ユキがどうしても嫌だったら、無理をすることはないよ。最初の条件からは外れるけど、他にも良さそうな物件はあ」
「絶っ対出ていかない!!」
「え……?」
「神さまだか何だか知らないけど、どんなに追い立てられたって出ていってやるつもりないから!!」
「そ、そうか? ユキが大丈夫なら良いけど……」
この一週間、度重なる悪戯に辟易していたわたしだが、そんなことは欠片も考えなかったし、考えるつもりもない。
これは、わたしの恋の第一歩なんだ。いつも遠くに行ってしまうタカ兄の傍に、ようやくいられるようになったんだ。
その邪魔をするのなら、神さまだろうが妖怪だろうが片っ端からぶっ潰す!!
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