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「おもしろい。実に面白い。君はクレイジーだね。姉の復讐のためだけにこの催しを受けたという訳だ。地位や名誉、生活の為ではなく、私怨を果たすその一心で」
言葉が出ない。否定する意味も道理もなかった。男は続ける。
「ちなみに言っておくが、私はただの人事部長、どこにでもいる中間管理職だ。我々を解体したいのなら、まだ顔を見ていない社長を仕留めるべきだろう。おっと、そんなことを言えば私が消されるな。今のは忘れてくれ」
「うるせえ。今度は個人的に潰しに行くだけだ。やめだ、やめ」
「だが、そうだな。君の目的がどうであれ、その戦闘能力は是非とも買いたい。また会場を準備するのも億劫でね。希望者も予算も無尽蔵にあるわけでもない。それに、君はまだ機会を逃したわけではないだろう。君の成し遂げるべき命題へは、我々の要求を呑むことが最善であるように思えるがね」
背後の巨大な即席モニュメントは赫く、そして太陽光を反射して室内に光を膨らましていた。なんて壮大な情景であるか、私の新たな人生の幕開けを祝福しようとしている。
そんなわけがあるかよ。
「改めて言おう。君は今日からエージェントだ。わが社の為に尽くしてくれ」
男が手を差し出した。
握り返そうとしたところでどうせ空を切る。私は踵を返し、血濡れた視界を凝らし、外の光がある方へと歩き出した。
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