本編

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 私達が入社したこの「株式会社B3――ブラックスリー――コーポレーション」は、来るものは1000%拒まないという唯一無二の社風で、世界中からは羨望というより数奇の目で注目されていた。  誰もがスターになれる。その社訓に従えば私たち人類の血は星屑の液体で、それ持ち合わせて生まれたこと、それだけがただ一つの採用条件なのだ。  試験もなければ面接もない。なんなら3列後方に座る男は「バイト面接に落ちた帰りの足」と、当日に飛び入り参加というありさまだ。  採用率100%という数字はかえって不信感を募らせるので、就活生の足を遠ざけているというレベル。  その癖、社会保障も福利厚生も過剰なほどに充実し、土日祝を確約された休日には節分の要領で財産をバラまいても消費が追い付かない程度の収入が手に入る。 「皆様にはこれよりわが社の大事な一社員として所属し、社会の大海に踏み出そうとしています。しかし、案ずることなかれ。ご存知の通りわが社は全世界から注目される上場企業の王者。敷かれたレールに合致する車輪さえ持っていれば、華やかな人生を約束しましょう」  壇上の男の話はまだ終わらない。私はあくびを噛み殺す。まだ話したそうに目配せする右隣の男に、くだらない祝辞に傾聴するよかましだ、という含みを存分に見せつけてから目線を返してやった。
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