本編

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 私と佐藤は同時に席を立ち、お互いを視界にいれることもなく腰を(ねじ)り、軸足の指は体育館のフローリングに跡を残すくらいに力を込めた。追従した握り拳を、相手の顎めがけて下手から飛ばした。  地面を跳ねるパイプ椅子。二度目のバウンドをしたと同時に佐藤の身体は鯉の滝登りのように宙を舞った。  彼の敗因は、私よりも懐が浅かったところだろう。殺意のこもった拳は私の耳元をかすめ、毛先がチリチリと燃えていた。  私は体制を立て直さず、すぐにそのまま身をかがめる。背後から水平に迫っていた戦斧――どこに忍ばせていたんだ――が頭上の風を切る音で回避したことを確認すると、屈んだ腿をバネにして飛び上がる。  まだ滞空している佐藤の足を掴むと、身を(ひるがえ)し、ジャンピング投法のようなカットで戦斧の出どころめがけて元就活生の身体を振り下ろした。  まさかホールの設計者もSF映画のようなクレーターが発生することをふまえてここを設計したわけはあるまい。  佐藤の身体は思ったより筋肉質で、想像以上の威力を伴った。戦斧を振り切った死に体の男は防御態勢が間に合わず、文字通り死体の直撃を受けたて床に伏せた。プロレスラーのような体躯だった。
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