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硝煙もその発生源も数を減らし始めていた。もくもくとうごめく灰色の霧は晴れ、気が付けば、私の足元は屍の山が築き上げられていた。
勝利への歓喜だとか、非現実的な闘争の終結にエモーショナリズムを感じだとかそういったものは微塵にも湧き上がらない。
視界は血濡れ、髪は鉄を吸ってびったりとスーツに貼りついている。
ただ、目の前が黙った。景色が止まった。0と1を振り分けて判断した結果の連続を脳で処理しただけであった。
パチ、パチ、パチとBPM90くらいの拍手が視界の外で鳴る。
壇上だ。
バトルロワイアルの開始を宣言してから微動だにしなかった白髭の男が満足そうな笑みを浮かべ、いじめっ子がクラスメイトのおにぎりを潰しているかのように平手と挟んだ空気を鳴らしていた。
その瞳はどんよりと淀んで、私を人ではなく記号として認識していることはりょう然だった。
「おめでとう。新入社員№――……えーっと、私にももうわからん。君はこの選別を勝ち抜き、明日からの出勤を許可する権利を得た」
「――そりゃどうも」自分でもわかるくらいに声が霞んでいた。闘争に刺激され、喉を割れんばかりに震わせ続けていたことにいま気がついた。
ここまで喉をからしたのはサークルの新歓コンパ以来だろう。
私は足元に転がるダブルバレル・ソードオフショットガン――幸い、弾丸は込められている――を拾い上げ、引きずるような足取りで壇上に足を進めた。
木製のひな壇をあがり、血ですべりそうになったローファーはその場で脱ぎ捨てた。
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