本編

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 目をつむる気はなかった。本邦初公開の姉の仇討ちは視界のフィルムにその一部始終をハッキリと映写する所存だった。  しかし、私が求めていたそれは映画監督にカットされてしまったようだ。人生とは思うようにいかない。  男の頭をさらっていく予定だった12ケージ散弾は有機体に触れることなく、その憎たらしい頭頂部を透過して背後のパネルを貫通した。  そこで男は豆鉄砲を撃ち返した鳩のように満足げな笑みを浮かべ、金色の歯をギラリと光らせる。 「……そうか。そういうことか。君の顔は去年入社したあの子によく似ているな」 「適当ぬかしてんじゃねえよ。聴衆の顔をいちいち覚えてるミュージシャンなんか存在しねえ」もう一度。殺意の弾丸は彼を通過するが、電波ジャミングのように実態が揺れるだけで被弾どころか驚いた表情の一つも見せなかった。 「いやいや。それがプロというものだよ。さ、その物騒な物は降ろしたまえ。いい趣味ではあるがね」  男の実態は、そこに存在しなかったのだ。非モニター映像電影体、つまるところホログラムとしてそこに最初から私たちの前に立っていたのだ。腰から下を隠していた台をどかせば、逆さハの字に薄まる下腹部が煌々と青白い光を放っていた。  銃を下ろした私は、気がつけば視界が潤んでいた。  ここに来て初めて、うまい話がそんなに転がっているわけがない事を五感で理解していた。そうだとも。復讐の機会がそんな簡単に転がっている筈ではない。私は毒を掴まされたのだ。
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