プロローグ『揺らぎ』

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プロローグ『揺らぎ』

一般人が住む町から離れた場所にある研究所。 ここでは怪しげな実験が行われている。 そして今夜も『とある実験』が行われようとしていた。 「エネルギー充填率、約50%になりました」 「よし、他の実験体の魔力を使え」 「分かりました」 カプセル状の機械の中からグッタリとした人が運び出される。 『人』とは言っても運び出されてきたのは猫の姿をしたいわゆる獣人。 この世界では総称で『星獣(せいじゅう)』と呼ばれている。 人間は存在しておらず、動物達が人間の世界と同じように暮らしている世界だ。 猫の姿をした人は白衣を纏った人に別室へ連れて行かれ、別の人が機械の中へ入れられた。 機械の中には手足を拘束するための器具が付けられており、顔にも酸素マスクのような物を付けられ扉を閉められた。 「よし、魔力を吸い出せ」 恐らく研究チームのリーダーだろう。 1人の研究員が指示を出し、装置のボタンが押される。 すると、機械の中から「んー…!」という声にならない悲鳴が聞こえてくる。 しかし、研究員たちはそんな悲鳴は二の次にモニターに映し出されているパラメータを食い入る様に見ていた。 「エネルギー充填率、約60%です」 「中々貯まらないな…。仕方がない『ヤツ』を…」 再び機械の扉が開かれ、グッタリとした人が運び出された。 そして、次に連れてこられたのは、目の周りを布で隠されている小さな少年だった。 見た目は狐の姿をしており、黒と灰色の体毛、そして、尻尾が9つに分かれている。 そして、左手から肩にかけて何やら包帯が巻かれていた。 先程と同じく機械の中て手足を拘束され、マスクを付けられる少年。 「本当に大丈夫なのでしょうか…?」 一人の研究員が心配そうに機械に入れられた少年を見ながら声を上げる。 「あの少年には魔力が全く無いと聞きましたが…」 「ヤツには何か特別な力がある。ヤツには何度も魔力を与える実験を繰り返した。しかし、ヤツに魔力が宿る事は無かった…」 「つまり、相反する力が働いていると…?」 「そう言う事だ」 研究員のリーダーは、そう言うと装置のボタンを押した。 先程と同じ様に機械の中から少年の苦しそうな悲鳴が聞こえ始める。 しかし、そんな少年の事など気にしない様子で研究員達はモニターだけを注視している。 「エネルギー充填率95%を越えました!」 「素晴らしい…!これで何とか本日中に実験を…」 予想以上の結果に浮かれる研究員達…。 しかし、次の瞬間…異変は起こった。 - ビー!ビー!ビー! 突然、鳴り響く警報と激しく点滅し始める赤い回転灯…。 「何事だ!」 リーダーが慌ててモニターを見る。 すると、そこには物凄いスピードで増えているエネルギー量の数値が…! 「少年から物凄い魔力が…!」 「早く止めるんだ!強制的に装置をシャットダウンさせろ!」 「ダメです…!既に装置は止めているのですが、流れ込んでくる力が止まりません!!」 「なんだと…!?このエネルギー量だと…この研究所一帯が吹き飛んでしまうぞ…!!」 何とか装置を止めようと必死になる研究員達…。 そんな中、機械の中の少年は苦しみと恐怖と必死に戦っていた…。 「(苦しい…。誰か…誰か助けて…)」 きっと装置が止められたから酸素が送られてこないんだ…意識が朦朧としてくる…。 僕の中で『死』という言葉が頭を過ぎる。 怖い…死にたくない…早くここから出して欲しい…。 でも…ここで死んでしまえば、もう実験に使われることもない… 寧ろ死んだ方が楽になる…? もう頭が働かない。どうでも良くなってきている自分がいる。 「(もう嫌だ…。楽になれるのなら…僕は今…ここで…)」 僕は死を受け入れた。 ゆっくりと目を閉じる。目から溢れた涙が頬を伝って流れた。 その時だった…。 警報音は今まで聞いたことのない程甲高く、そして、大きな音を上げて…遂に爆発した。 爆発する瞬間の事はよく覚えてない…。 でも、その爆発はとても凄まじくて、白煙と赤い炎をあげながら辺り一帯を吹き飛ばしてしまった『らしい』 …どうして『らしい』なのかって? それは、僕は今別の世界にいるから。 そう、これは僕が体験したちょっぴり不思議なお話…。
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