1人が本棚に入れています
本棚に追加
慌てて周りを見回す。
すると、掃除の途中でホウキを持ったまま不安そうに見つめる女の人が立っていた。
「お姉さん、これ借ります!!」
女の人からホウキを奪うように取ると、両手で剣のように構えた。
「邪魔だ、クソガキ!退けぇー!!」
引ったくり男は、大声をあげながら突っ込んでくる。
でも、僕は退かないよ。
これからシーカーの一員になるんだからこれくらいは何とかしなくちゃね。
引ったくり男は、退かない僕をどうにか突破しようと拳を握ると振りかざす。
それを見た僕は、相手の懐に飛び込むようにその拳をかわすと、足に向かってなぎ払うようにホウキを振った。
バチーン!
大きな音が辺りに響き渡ったと思うと引ったくり男が前のめりに倒れた。
そして、倒れた後も足の甲を押さえながら悶え苦しんでいた。
うーん、ちょっとやりすぎちゃったかな…。
「…もう、ダメですよ?引ったくりなんて…。どうせ昨日のFATE(フェイト)騒動の後を狙えば上手くいくと思ってやったんだと思うけど」
そう言うと、男が抱えていた荷物を取り上げる。
そして、借りたホウキを清掃中の女の人に返した。
「これ、ありがとうございました!あと警察に連絡をお願いします」
そう言って頭を下げると、道に座り込んでいた女の人の元へ向かった。
「お姉さん大丈夫?これ盗られたんでしょ?」
僕は、そう言って小さな箱を渡した。
この女の人は、楽器屋の店員さん。
開店準備をしていた所を引ったくり男に商品を盗られてしまったらしい。
荷物を受け取った店員さんは、僕に何度も頭を下げてくる。
感謝されるのも久しぶりの感覚だ…。
「本当にありがとうございます!突然後ろから荷物を取られてしまって…」
「いえいえ、怪我がなくてよかったです!」
「あの…あの方は大丈夫ですか?随分痛がってますけど…」
店員さんは、足を抱えて地面に転がったままの引ったくり男を心配そうに見ながらそう溢す。
「大丈夫ですよ!しばらくは動けないかもしれませんけど…」
悪い事をしたわけだし、自業自得って事で…。
そんな会話をしていると、騒ぎを聞きつけて人が集まってきた。
あんまり目立つと不味そう…。
ゾロゾロと人が集まって来るのを見た僕は「じゃあ僕、そろそろ行きます」とその場を離れようとする。
「あっ、宜しければお名前を…」
足早に立ち去ろうとする僕に慌てて声をかける。
「クロノです!昨日からレナさんの所でお世話になってます」
僕は、振り返ると頭をちょこんと下げ、小走りにその場を去って行った。
「レナさんの所…。もしかして昨日の騒ぎを解決した子かな…?」
僕が走って行く方向を眺める店員さん。
すると、後ろから男性に話かけられた。
「今の子は?」
突然の事に一瞬ビクッと驚く店員さんだったけど、顔を見るなりホッとした表情を浮かべた。
最初のコメントを投稿しよう!