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「あははっ!君、さっきから謝ってばかりだよ?」
気を遣ってくれてるのかな…
兎の女の子の笑顔にちょっぴり救われた気持ちになる。
「ところで、何処へ行きたいの?」
道を教えて欲しいと言った僕に女の子が何処に行きたいのかを質問してくる。
僕は思わず、一瞬困った様な表情を浮かべてしまう…というか本当に困ってしまった訳なんだけど…。
「その…レオン…。レオン…さんのお墓の場所が知りたいんです。墓地には行ってみたんですけど、そこには無いって…」
「レオン君のお墓…」
『レオン』という言葉に反応し、笑顔が消える兎の女の子。
…もしかして聞いたら不味かったのかな。
後悔の文字が頭を過った。
すると、そこへ猫のお姉さんが紅茶を煎れて来てくれた。
紅茶のいい香りが僕の鼻を優しく突く…。
「レオン君のお墓なら町外れの丘の上よ。でもどうして…?」
「えっと…ただのお墓参り…です…」
「…君みたいな小さな子が一人で?」
「(うっ…)」
猫のお姉さんの質問攻めに思わず言葉を詰まらせる。
もしかして勘づかれた…?いやそんな事はないはず…。大丈夫、落ち着こう…。
平常心を装って猫のお姉さんの顔をじっと見つめる僕…。
でも、緊張で僕の顔が引きつっていた事にお姉さんは気付いていたみたい。
「君…お名前は?」
やっぱり怪しまれてる…。
名前なんて考えてなかった、どうしよう…。
「えっと…ク、クロノ…です」
ただ名前を名乗るだけなのにビクビクしてしまう。
それもそうだよね、だってたった今思いついた名前なんだから。
今、僕は本当の名前を名乗る事は出来ない…。
何となくそんな感じがした。
「クロノ君ね?私はココ。よろしくね」
「私はミーナ!ごめんね、レオン君の名前を久しぶりに聞いたからちょっと驚いちゃって…」
猫のお姉さんがココさん、兎の女の子がミーナさんか。
本当の名前を名乗れない事に罪悪感を覚える。
「じゃあ地図に印を付けてあげるから紅茶を飲んで待っててね」
ココさんはそう言って紅茶を僕の前に差し出すとミーナさんの手を取って厨房へと歩いて行く。
でもその時、僕は気がついてしまった。
僕から離れていく時、ココさんの人差し指がカップの縁に向かって伸びているのを。
「あ、あのっ…。ココさん…今、『何か』しました…?」
僕は思わずココさんを呼び止めた。
『何をしたのか』は予想出来てはいたけど、あえて濁して質問してみる。
「何かって?私は紅茶を差し出しただけだよ?」
…流石ココさん。
何をしたのか証拠がないためこれ以上は詰め寄る事が出来ない。
僕とココさんの不自然な会話に何も気がついていないミーナさんが首を傾げる。
ココさんは、現状をよく理解しないままのミーナさんを連れて厨房の奥へと入って行った。
僕の不自然な所をミーナさんに、教えているんだろうか…。
そう言う僕もココさんが出してくれた紅茶に違和感を感じていた。
間違いない。何かが『掛けられている』
僕はは厨房の方へと目を向ける。
厨房からは食器を出し入れする音がカチャカチャと聞こえる。
「(やっぱりこれを飲むまでは帰らせてもらえないみたい…。こうなったら出たとこ勝負でいくか…)」
僕は、ため息を吐くと立ち上がり、厨房へと近づいて行った。
「あ、あのー…そろそろ行きますので…」
「あら、もっとゆっくりしていけばいいのに…」
ココさんはそう言いながら厨房から出てきた。
その目線は、テーブルに置いてある手つかずの紅茶に向いていた。
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