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「…もしかして、時間が止まってる?」
「その通りだよ、お兄ちゃん」
僕は、背後から聞こえてきた声に驚いてビクッと反応し、尻尾と耳がピンと立つ。
振り返ると、僕よりも更に小さい狐の男の子立っていた。
黒と灰色の体毛に9つに分かれた尻尾…。
瞳の色は左右とも赤色だけど僕にそっくりだ…。
「君はもしかして…」
「うん、僕はレオン…。お兄ちゃんは、『別の世界の僕』みたいだね」
やっぱりそうだ…。
やっと一つの答えが見つかった。
僕が今居るこの世界は…僕が元々居た世界とは違うんだ。
あの実験装置が暴走した結果、僕は偶然にも別次元のこの世界に飛ばされたんだ。
僕が過去に亡くなっている世界に…。
「とにかく時間がない…。お兄ちゃんに僕の力を全部託すよ」
レオン君は、右の掌を僕へと向けた。
レオン君の体は僕へ向けた右手から体が粒子状になり、消えていく…。
「ダメだよ!そんな事したら君が…!」
僕はやめさせようとしたけど、レオン君は首を横に振ると優しく微笑んだ。
「僕はもうこの世界にはいないんだ…だから大丈夫!この力はお兄ちゃんが使って…」
粒子状になったレオン君が僕の体の中へと入っていき、完全に消えてしまった。
「ココさん達が危ない…。あとは任せたよ、お兄ちゃん…」
レオン君が消えると止まっていた時が動き出した。
僕は、あっという間に集団に取り囲まれた。
全員、黒いマスクで顔を隠し、黒い服に身につけている。
そして、肩や胸の辺りには時計の文字盤と天秤を表すマークが刺繍されていた。
…僕は、このマークをよく知っている。
「おじさん達、FATE(フェイト)だよね」
「…小僧、何者だ?オレたちの事をどうして」
「ごめんなさい。話してる時間はないみたいなんだ」
僕は、ゆっくり右手を上げる。
すると、僕の右手からは電撃が放たれ、直撃したFATE(フェイト)の団員達は悲鳴を上げながら次々と倒れていった。
すごい…魔法が使えるようになってる…。
今まで魔法なんて全く使えなかったのに…。
僕は、レオン君から授かった魔力に驚く…。
でも『ココさん達が危ない』というレオン君の最後の言葉を思い出して表情が引き締まった。
すぐにカフェへと戻りたかったけど、FATE(フェイト)の団員をそのままにして置くわけにもいかない。
もし、早いうちに意識が戻れば逃げられてしまうし…。
…とりあえず逃げられないように縛り上げておこうかな。
僕は団員達を1人ずつ茂みの中へ運び、まとめてロープで縛りあげた。
因みにこのロープは、団員達の手荷物から拝借したものだった。
団員達を茂みに運び終えた僕は、再び丘を下り、カフェへと向かった。
その頃、町中ではFATE(フェイト)の団員達が民家へ押し入ったり、外にいる住民達は道の端へ集められたりとやりたい放題状態になっていた。
それは、ココさんのカフェも例外ではなくて、ココさんとミーナさんもお店の中で4人の団員達に囲まれていた。
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