鏡花

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 鏡花はそれから先も、人形のごときふるまいを変えることはござんせんでした。  時折、家人の知らぬ間に外に出て行くことがあったようでございますよ。たいていは一人でぽつねんと座っているところを誰かに見つけられ、手を引かれては帰ってまいりました。  そのとき住んでいる家に、必ず帰ってきたんでございます。  そう、鏡花の家は幾度か変わったんでございます。時を経て、家族も変わりました。  妙な言い方ではござんすが、実際そうだったんでやす。  鏡花の親兄弟、使用人やらが、奇妙に失踪してしまうことがたびたび起こりやしてね。家族を失うたびに、鏡花は親切な御仁に引き取られていきました。  ですが引き取られた先でも、同じことが繰り返される。  鏡花は一人になり、その度に誰かに手を引かれて行った先に住みつきました。  不思議なことに、鏡花は光を失ったあの日から、歳を取らなくなりましてね。病にかかることも、傷を負うこともないんでやす。  与えられた食事は口にするものの、腹が減ったと言い出すことはなく、実際何も飲まず食わずでも平気な顔をしておりました。  もちろん、その美しさにもまるで陰りはないんでございます。  鏡花の引き取り手が後を絶たなかったのも、やはり美貌のお陰なんでございましょうね。  鏡花が今どこでどうしているのか、あっしにゃ見当もつきませんや。  ただ確かなのは、鏡花は幸せを感じているってことでございます。  鏡花にとっては、己を取り巻くものすべてが愛おしく、すべてを慈しんでるんでございますからね。  美しい顔を持つ鏡花は、心もまた、たいそう美しいんでやす。  まァあっしは、鏡花にまみえたいとは思いやせんがね。  お気をつけくださいな。  闇に侵食されることが幸せかどうか、それはみなさんの心持ち次第でございます。  それでは、どうぞ良い夢を。
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