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不動 島原にて
元治元年 皐月
やっぱり若い姉ちゃんは綺麗に着飾って紅さして笑ってた方が数十倍は美しいな。
遊女を鳥とするならば島原は大きな籠だ。一度入ってしまったからには二度と出られることの無い籠。
そんな所に閉じ込められている女を愛でるなんて趣のない事を、と昔誰かに言われたような気もする。
まぁ、そんなことは気にしちゃいねぇがな。綺麗な姉ちゃん達に囲まれチヤホヤされて、一晩で浮世を忘れ、夢を見させてくれる島原が好きだった。
「ねぇ、不動さん、知ってるかい……?」
「ん、どうした?」
酒をあおっていると、一人の遊女からこっそりと声をかけられた。
「神戦組の噂、だよ。不動さんはうちの上客だからねぇ……、一つ話しておこうと思って」
「そりゃどうも」
軽く返事をすると、その姉ちゃんは ぱん、と手を大きく叩き、周りにいた禿や他の姉ちゃんたちを別室に移動させた。
「二人きりにならねえとできねえような話なのか?」
「まぁ……ね」
「もしかして、俺を口説こうってのか? にしては神戦組の話を出すだなんて随分と無粋じゃねぇか」
軽く笑いながら姉ちゃんの髪に触れるが、ぴしゃりと跳ね返された。
「……どうしたんだよ、らしくない」
「真面目な話なんだよ、ちゃんと聞いとくれ」
そんな姿を見るのは初めてだった。よっぽどの事らしい。
それなら、と体を姉ちゃんの方に向けて話を聞く姿勢を整える。
「で、神戦組がどうしたって?」
「ここだけの話だよ……、どうやら水無月の満月の晩に越後屋って宿と池田屋って食事処に討ち入りをするらしいんだ。だから絶対近寄っちゃいけないよ」
ぐい、と顔を寄せ、耳元で囁かれる。
へぇ、満月の晩にねぇ……なんとも物騒じゃねえか。
「で、なんでこの情報を姉ちゃんが知ってんだ?」
ゆっくり肩を抱き寄せながら耳元に囁き返す。およし、という言葉には聞こえないふりをした。
「ちょうどこの前、神戦組の幹部連中がこの店に来てね……、そんな事をこぼしていたのを耳にしたのさ。だから情報は確かだよ」
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