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部屋の周りが静かになるのを待ち、そっと地袋から抜け出す。
ガラッと勢いよく窓を開けると姉ちゃんを抱き上げる。
「何をするの!」
「何って……逃げんだよ」
「他の人を置いて逃げるつもり? 大変なことになっているっていうのに!」
「他の奴らのことなんか構っちゃいられるか。……ここは二階だからちぃっと目を瞑っておいたほうが良いかもな!」
この部屋の下はちょうど宿の裏口に当たるらしく、運よく下には人っ子一人いない。
動きをつけて窓枠に足をかけ、庇へと飛び移り、そこから地面へと飛び降りた。
庇を間に挟んだとはいえ二人分の全体重が足へとかかっている。
痛みがじいんと足を駆け巡った。
こりゃあ一本やっちまったかもしれねぇな……。
姉ちゃんをそっとおろし、家に帰ろうかと歩き出したが、姉ちゃんに引き止められる。
「不動さん……あなたまさか、今日ここへ神戦組が討ち入りするとわかって私を呼んだの?」
「まさか」
軽く笑いながら振り、じっと目を見つめる。
「じゃあなんで満月の晩、池田屋でご飯を……だなんて言ったの? 別の日、別の場所でもよかったじゃない。それに嘘ついているの、わかるんだから。あなた神戦組の副長が、って言っていたわよね? 地袋の中にずっと居たはずなのに、どうして神戦組が宿に討ち入りに来たことを知っているの? 姿を見た訳でもないのに……」
「さぁな、ここでこんなこと言ってねえで、せっかく逃げられたんだから 家に帰った方がいいんじゃねえか。なんなら送って行ってやろうか?」
そう言い返すと ばちん、と頬を叩かれた。
「あなた本当に最低ね! 困っている人がいるのに助けずに自分だけ逃げようだなんて! さっき、下に行ったら大変なことになってたわ。神子の仲……いや、えっと、知り合いがたくさん、神戦組に殺されてた……。奴らの狙いはその……神子、でしょう」
興奮が冷めてぼんやりとした頭で、ひりひりする頬を軽くさすりながら、話を聞く。
姉ちゃんは目に涙をいっぱいためながら肩を震わせていた。
別に泣かせるようなつもりは無かったんだけどな。
「……、神子は物語や歴史の中だけのもんだろ。神戦組だって、治安維持のために動いてんだし、殺された知り合いってのも悪いやつなんじゃねえのか」
ギリギリと睨みつけられ、襟ぐりを掴まれる。
「……あなた、本気でそう思っているわけ? 神戦組はあの宿にいた人全員を殺そうとしていたのよ? 私だって、何もしていないのに殺されそうになったし……」
襟をつかんでいる手が軽く震える。それが恐怖から来るものなのか、それとも怒りか、俺にはわからなかった。
「……なーんて、な。さすがに神子が存在していることくらい知ってるさ。神戦組のこともな。あと、姉ちゃん、あんたは神子だろう」
袖をつかんでいる姉ちゃんの手を掴むと、着物の袖をぐいと引き上げる。
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