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刻々と色を濃くしていく夕焼けで、先輩の顔が茜色に染まっている。
「誰かにこんな感情を抱いたのも初めてで、何て伝えたらいいのか分からないんだけど……あはは、何だか本当に格好が付かないな」なんて続けてはにかむ表情は、少し照れているようにも見える。
「……先輩は、格好悪くなんてありませんよ」
「……うん。ありがとう、小鳥遊さん」
「ふふ、小鳥遊さんには前にも同じ言葉を掛けてもらったことがある気がするなぁ」と言いながら綺麗な笑みを湛えた先輩。
ゆっくりとした動作で腰を上げ、元々座っていた私の正面席へと戻っていく。
「ああ、それから。――返事は、今は要らないよ。これで俺のことも少しは意識してくれただろう?今はそれだけで十分だから」
直ぐに返す言葉が出てこずひとまずこくりと頷けば、タイミングが良いのかゴンドラの扉が開かれた。気付かぬうちに1周回り終えていたようで、地上へと戻ってきたらしい。
スタッフのお姉さんの声に従い降りようと立ち上がれば、後ろから届いたのは芯の通った熱のある声。
「でも、これからは遠慮しないから――覚悟しといてね」
振り向けば、視線が重なる。
細められた瞳もどこか熱を帯びているように感じて、全身を射抜かれたかのような心地に視線を逸らすこともできない。
思わず固まってしまえば、空いている左手を大きな掌で包まれた。
「よし、それじゃあ行こうか」
――――観覧車から降りて弟たちを待っているまでの数分間、繋がれた手は離されることがなかった。
どれだけ声を掛けても視線で訴えても笑顔ではぐらかしてくる先輩に根負けした私は、ただただ熱い頬を冷ますことに集中する羽目になるのだった。
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