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私は叫びたかった。
ココリナ、行かないで。私を置いていかないで。私の大事な家族、私の大事なココリナ。
どうして! 行かないで、行かないでよ!
気づいたら心の中で声を荒らげていて、私は口を両手で覆った。でも、もう叫んでしまったのだから我慢したってしょうがない。もう、叫んでしまえ。
ココリナ! ココリナ! いやだ、いやだよ!!
永遠などありえない事、知ってるよ。でも、どうして? どこいても見えるココリナの幻に、気づけばスマホに保存されているたくさんの写真や動画を見る度に、火葬の時に作ってもらったココリナの骨の欠片を閉じ込めたキーホルダーを身につけ縋る度に、時間がその日から見えないぐらいに遠ざかるほど過ぎても、私はまだ、乗り越えられない。
心が破裂してしまいそう。私はあのオレンジ色のもやもやとした空間で逆さまになって浮かんでいた。ふわふわとした心地良さに瞼が重くなり、涙が涸れていく。
目の前に、大きな身体が見える。もやもやとした空間をはち切れんばかりとさせている。短い毛、白地に茶色が重なり、さらにその上から黒が塗られたそれ。
「くるみちゃん!」
私の手を握ったのは誰? 焦った碧い瞳。金糸が靡いて私の手を引っ張る。
「渚……くん、どうして」
「くるみちゃん! 目を覚まして、君の心がはち切れちゃうよ!」
「えっ……」
渚くんの背後でそびえ立つそれは、ココリナだった。大きな身体を窮屈そうにして、元気な頃の真っ黒な瞳が、悲しげに陰っていた。
「君の悲しい叫びが君の心の中で暴れて、壊れかけてるんだ」
私の心、壊れる? 心が壊れるってどういうこと?
「僕たちは君の心にいる!」
心って何? 私が生きていく世界では渚くんも、ココリナの姿も見えない。心にいるってどういうこと?
「だから、今は安心してたくさん泣いていいよ。悲しみを全部、心の内から外に叫んでから、笑うのは、それからでいいから」
渚くんが笑ってる。なんてやわらかい瞳、でも悲しそう。大きくなりすぎたココリナが、こちらに黒い瞳を向けて、泣いている。
「ココリナ、泣かないで」
ココリナに手を伸ばす。あんなに大きいのに届かない。どうしてかな、私もココリナも渚くんも、悲しいのかな。
「私だけじゃない」
悲しいのは、誰のため。
「悲しいのは君のため」
あたたかなメロディー。歌を紡ぎ出す彼の声に、私はただ耳を澄ます。
「悲しいのはあの子のため」
私の心にはち切れんばかりの大きさでいたココリナが、だんだんと小さくなっていく。
「ココリナ、私もう立ち止まらないよ、ここで全部、悲しいのを叫ぶから」
ぽろぽろ零れてくるものが浮かんで、小さくなったココリナを映してきらきら輝いた。私はココリナを抱きしめて、ココリナは私の頬を舐めてくれた。こんなに温かく感じるのにね。
「僕たちは君の心の中で生きる」
渚くんはココリナの頭を撫で、私の残りの涙を指ですくう。
「じゃあ、私は、私は、私のいるべき世界で生きるよ」
渚くんが私の部屋の天井のポスターの絵のように、優しくはにかんで頷いた。
「僕たちいつでも、心の中で会えるよ。くるみちゃん、君が僕たちのことを思い出してくれるたびにね」
サービス終了しました。強い言葉で打止められた未来が見える。残酷に思えたけど、悲しみの涙を流すのは私だけじゃない。終わりに思えた出来事も、これからはじまる出来事も、永遠ではないものも、全部受け止めまた涙に溶かして、生きるよって、私は心で叫んだ。
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