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見知らぬ女性
家を出ると、昨日の雨のせいか、モワッとした湿度と熱のこもった空気が肌に張りつく。今日も暑くなりそうだ。
(お弁当、大丈夫かな?)
一応、保冷剤は入れてきたけれど。そんな心配をしながら、誰も居ない平坦な道を軽い足取りで歩く。
最寄り駅から電車に揺られて、1時間。駅からバスに乗り、さらに20分。5階建てのマンション前のバス停で降りる。
今日もバスを降りたのは、わたし1人だけ。電車通学の学生は少ないみたい。
マンションの近くの電柱の前には、今日も花束が手向けられている。わたしはそこで、足を止めた。
ここは、上垣部長の知人が亡くなった場所。花束は、部長がお供えしているのだろうか?
『死者を悼む気持ちを忘れずに』と、亡くなった祖母がよく言っていた。わたしはその場で手を合わせ、黙祷する。
(安らかに、お眠りください……)
「また、部長と来ますね?」
そんな言葉をかけたのは、花の色が変わり始めていたから。わたしから声をかけなければ、きっと。部長は、1人でこの場所に来るだろう。
ここから、さらに歩いて坂を登れば、わたしの通う高校につく。
(この坂が、キツいんだよね?)
帰り道は下り坂なので、気にならないけれど。空腹の朝に、この坂道は辛い。
朝食、しっかり食べれば良かった。そう、後悔した瞬間。
「おはよう……」
隣を歩く女性に、挨拶された。女性は色白で、クリーム色のスーツを着ている。慌てて挨拶したけれど。あんな人、この学校に居たんだろうか?
(先生、だよね?)
坂の上には、学校以外の建物はない。なので、この道を利用するのは、学校関係者のみだ。
そして女性は、制服ではなく、スーツを着ている。年齢は20代半ば頃に見えた。
わたしが知らないだけで、向こうは知っているのかもしれない。
それとも、自分の学校の生徒だから挨拶しただけ?
(なんだろう? 気になる……)
教師と思われる、見知らぬ女性に挨拶された。ただそれだけの事に、妙な胸騒ぎを感じる。
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