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憧れの人
朝の違和感が拭えないまま、時は流れた。
本当は、先輩がお弁当を取りに来た時に話したかったんだけど。先輩が「いよいよ、色に会えるね?」なんて、からかうから。何も言えなかった。
授業が終わるとすぐ、先輩より早く着くように、待ち合わせの図書室へ向かった。
図書室には誰も居ない。カチコチ鳴り響く時計の針の音を聞きながら、先輩達を待つことにした。
『明日の放課後、集まろうか』
由利先輩に会える。それだけで、楽しみなはずなのに。
『江沢君の好きな、図書室で』
……部長が、変な言い方をするから、意識してしまう。わたしはずっと、由利先輩に会いたかった。
入学前、パンフレットに載る由利先輩の姿を見た時から。
初めての事だった。写真を見ただけで、その人に会いたい、話がしたい。そう強く思ったのは。
ガラガラッ──
扉の開く音がする。背後からは、ふたつの足音と話し声。
1人は、聞き慣れた上垣部長の声だ。もう1人の声は、耳に流れ込むように聞こえる。この、優しい声の主は……。
期待に弾む胸を押さえながら、振り返る。そこには、憧れの人の姿が。由利色先輩が、居た。
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