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自己紹介
「は、はじめまして!」
自分の元へと歩み寄る由利先輩に向かって、わたしは深々と頭を下げる。由利先輩はとても眩しくて、見ていられなかった。
「はじめまして。江沢ユナさん」
(ふ、フルネーム!? )
どうして由利先輩が、わたしのフルネームを知っているんだろう?
だけど、それよりも……。
(名前、呼ばれた……)
どうしよう、どうしよう!?
由利先輩に、名前を呼ばれてしまった。チラリと、由利先輩の顔を見上げる。目と目が合って、由利先輩がニコリと微笑んだ。
(目が合った! もう、無理!!)
恥ずかしさと緊張で、足が震える。恋なんて、生易しい感覚じゃない。これは、尊敬と畏怖だ。
例えるなら、神様にお会いしたような感動……。
「おい、色。江沢君をからかうな」
(部長……)
上垣部長の少し低い声で、我に返る。
そうだ。今この部屋には、先輩と部長とわたし。3人が居るんだった。
そう思うと、肩の力が抜けて、少しだけ緊張がほぐれる。
「ごめんね? 江沢さん」
「い、いえー」
由利先輩が謝る。何に対しての「ごめん」なのかは、ちっとも分からないけれど。
「江沢さん。ユナって、どんな字なの?」
再び、由利先輩の真っ直ぐな視線が、わたしの瞳を射抜く。先輩が一歩距離を詰めた。手を伸ばしたら、触れてしまいそうな距離にドキドキする。
(どうしよう、どうしよう?)
気持ちとは裏腹に、口からはポロポロと言葉がこぼれ落ちた。
「ユナは……カタカナです……」
「カタカナ?」
「はい。母の、希望で」
(あれ? そんな話、聞いたかな?)
自分の口から出た言葉を疑問に思う。名前のユナは、カタカナ。その意味を気にした事なんて、今まで無かったのに。
「……隠し名か」
「……恐らく、ね?」
先輩と部長が、囁き合う。この距離感。やっぱり、二人は、いとこ同士なんだなと感じる。
二人の距離にわたしは馴染めなくて、それがほんの少しだけ、寂しい。
「部長! いつものアレ、やりませんか?」
そんな空気を変えたくて。ワザと明るく振る舞う。
「……あれ?」
部長が眉をひそめる。いつもは部長から勧めるのに。今日の部長はノリが悪い。
「降霊術ですよ!」
「降霊術……ね?」
フフっと、由利先輩が笑う。
(変な子だと思われた!?)
部長の影響で、つい。コックリさんの事を降霊術なんて言ってしまった。
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