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朝
今日は、憧れの由利色先輩に会える。そう考えるだけで、わたしの胸は充実感で満たされていく。
ジュージューと音を立てるフライパンで野菜を炒めながら、思わず笑みがこぼれた。
(由利先輩に会えるなんて、夢みたい……)
ずっと、写真越しに眺めていた、由利先輩。その顔をこの目で見られると思うだけで、胸が高鳴るのを抑えられない。
こんな気持ちを人は、恋と呼ぶのだろうか?
「……先輩」
今日、貴方にお会い出来るのですね。そう思い、声に出して呟いた途端、頭に浮かんだのは……。
「もう!」
わたしは首を横に振る。頭に浮かんだのが生徒会長の由利先輩ではなく、先輩でオカ部の部長の上垣花音先輩だったから。
(なんで、部長の顔が?)
二人が、いとこ同士だと聞いたからだろうか?
周りからの人望が厚く、人気者の由利生徒会長。そして、学校中から変わり者と呼ばれるオカルト研究部の上垣部長。
失礼ながら、二人の共通点といえば、その恵まれた容姿のみだろう。
由利先輩は、背が高くてカッコ良くて、女子生徒から特に人気がある。上垣部長は、長い黒髪と栗色の瞳が印象的な美少女だ。
(……黙っていれば、ね)
つけっぱなしのラジオが、時間をつげる。ハッとして、壁の時計を見上げた。いけない。そろそろ家を出ないと、学校に遅刻してしまう。
わたしは朝食もそこそこに、二つのお弁当箱とカバンを持って家を出た。
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