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九里がお社に戻ると、八坂が八十八となづなにかいがいしく世話をされていた。足首には包帯が巻かれている。
「足、大丈夫?何かあったの?」
「あー、うんちょっと。捻っちゃて」
目元にあてていた冷やしタオルをずらし、八坂が答える。
「それだけじゃないでしょう!そんなに目を腫らせて!」
なづなが、心配が過ぎて怒っている。
「いや、本当にもう大丈夫だから」
困ったように八坂が笑う。その片手は八十八をもふもふと撫でている。どうやら八十八は心の癒し担当に専念しているようだ。
「八坂さん。その足で帰るのは無理なので、今日は泊まっていってください。いいですよね?神様」
「まぁ、今回は仕方ねぇな」
「いやぁ、でも連絡せずに外泊したら、私も茜ちゃんみたく捜索対象になっちゃいそうだし」
「茜ちゃん?」
九里が首をかしげる。
そうそうと、もうタオルをはずしてしまった八坂が、九里に顔を向ける。
「宮野茜ちゃん。昨日話した行方不明の子。早くご両親に会わせてあげたいんだけどねぇ」
「あぁ、その子のお願いなら、もう叶えられたよ」
「へ?」
腰を下ろした九里が、にこにこと告げる。
「昨日確認したいって言ってたの、その子の家だよ。場所がわからないと無理だから。まぁ、会ったと言っても魂だけだけど」
「魂?」
「うん。死人は生き返らせられないから」
目を白黒させている八坂に、九里はあれ?と首をかしげる。
「ほら、神様機嫌悪かったでしょ?山の中で子供が殺されたから……」
「か、神様!?」
「あ?」
「山の中に茜ちゃんはいないって昨日っ」
「迷子はいねぇつったんだ。名前は今が初耳だ」
「でもっ、だからってっ」
八坂が唇をわななかせる。
「か、神様のばかー!」
「はぁぁ?今なんつった」
「ばーか、ばーか」
ぎゃーぎゃーケンカし始めた二人を、九里は微笑ましそうに眺めた。原因についてはよくわかってない。
「く、九里さん」
「どうかした?なづな」
「あの、止めなくていいんですか?」
「何で?」
心の底から不思議そうな九里に、なづなは言葉に困る。
「その、ケガに響きますし、私には止められないので。できたら九里さんに止めてほしいのですが」
「それはなづなのお願い?」
こくこくとなづながうなずく。
九里は笑みを浮かべて立ち上がった。
「そっか。じゃあそのお願い叶えよう」
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