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プロットは悪くない。アイディアも独特。キャラクターも立っている。しかし最終選考にまでは至らなかった。
「また予選落ちです」
川出拓也は力なく報告した。
「この三年、小説賞の投稿回数は二桁にのぼります。内、最終選考にまで進めたのは二回だけ。あとは全て予選落ち」
ともすればため息がついて出る。まったく目がないのならまだあきらめがつくのだが、友人知人の感想はおおむね好評。編集者からもらった選評も悪くない。
ただ、一つだけ、自分の小説には致命的とも言える欠点があった。
「足りないのは表現技術や文章能力ーーつまりは筆力です」
今回落選した小説賞の選評にも、表現技術について言及されていた。
文字だけで読者の想像力をかき立て、夢中にさせるのが小説。わかりやすい表現は無論のこと、その場にいるかのような臨場感や共感を呼び起こすのは、作家の文章技術にかかってくる。
「特に今回応募した小説はテロリストと戦う力士の話ですから、生死を賭けた戦闘シーンに緊迫感や臨場感がないのは致命的です。まあ、筆力という改善点がハッキリしているのはまだ希望がありますけど」
しかし次の公募締め切りまで残り二ヶ月を切ったこの状況で、飛躍的に筆力を向上させる方法などあるのだろうか。
「次は国内で最高の賞金額を誇る『このエンターテイメント小説がすごい!』小説新人賞に挑戦しようと考えています。なんとしても最終選考には残りたい、のですが……」
拓也は肩を落とした。親には大学四年間だけ、という約束で小説の執筆を許されている。駄目ならば一般企業に就職する道を探さなくてはならない。今回が最後のチャンスなのだ。
不意に、それまでひたすら聞き役に徹していた姉の流子が身を乗り出した。
「筆力、ですって……?」
目を見開いた流子に訊ねられる。気圧されながらも拓也は頷いた。
「はい。筆力です」
「それが足りないと」
「まあ……そういうことです」
流子は椅子に座り直した。口元に手を当てて考え込むことしばし。
「難しいですね」
「ですよね」
「しかし方法がないわけではありません」
「あるんですか!?」
今度は拓也が身を乗り出した。
姉の流子は大学で日本文学を専門に研究している。古今東西の文豪達の小説を毎日のように読み、分析している流子なら、文章に関しては人一倍詳しい。
「一ヶ月、いいえ二週間あれば……おそらく」
素晴らしい。渡りに船とはまさにこのこと。期待に目を輝かせる拓也を、流子は真剣な面持ちで見つめた。
「とはいえ短期間で筆力を鍛えるのは至難の業です。生半可な覚悟では到底無理ですよ」
逆を言えば、二週間を耐え抜けば表現技術と文章能力が上達するということだ。他に名案がない以上、乗らない手はない。
「覚悟はできています」
拓也は勢いよく頭を下げた。
「次は絶対に負けられないんです。どうかよろしくお願いします」
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