16.新たな世界

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16.新たな世界

「天帝様、俺は神になったんですよね」 『ああ、役目を持たぬ神だがな』 「ならば俺にお役目を下さい。俺は太陽神になりたいのです」 『……いいのか、これまでのように数百年ではすまないぞ。地球が果てるまでお前は生き続けなければならない』 「構いません。雁居や皆を助ける為だったのならいくらでも耐えられます」 『……わかった。役目を負わせる代償に何でも願いを言いなさい』 「願いは2つあります。1つは壊滅した地球を元通りに再生すること」 『言われるまでもない。了承した。それでもう1つは?』 「……もう1つは――」 △▽△  雀の鳴き声で、ぱちりと目が覚めた。 (私は、誰だっけ――?)  思い出そうとぷるぷると頭を振る。 (ええと、私は雲野雁居。雲野家の末っ子で、退魔師……だよね?)  正しいのになぜか確信が持てない。  何か壮大な夢を見ていたせいだ。  私は幻の雨しか見えない女の子で、日々を鬱々と過ごして、幼馴染の男の子に散々迷惑をかけていた。  それで大冒険をして、竜になって――。 (そこから、どうなったんだっけ?)  そこでバッサリと夢の記憶が断ち切られている。でも必ず思い出さなければいけない気がした。  誰か忘れちゃいけない人がいる。 「……透君」  はっと今自分の口から出てきた言葉に動揺する。なぜか懐かしい響き。だけど、知らない名前だ。 「透君って、誰なんだろう?」  お兄様に見送られて学校に向かう。  今日も6月の湿気でじわじわと蒸し暑い。でも空は――。 「ああ、晴れている――」  仰いだ空では太陽が優しく陽光をふりまいている。  なぜか涙が溢れた。いつも見慣れている太陽なのになんでだろう。まるで……諦めていた夢が叶ったかのよう。  耐え切れず、道端にかがみこむ。ハンカチで拭っても拭っても、流れる涙は止まってはくれない。 (嬉しいけど、悲しいんだ……)   同じ太陽を一緒に見たかったあの人が、ここにいないから。  でも、肝心のあの人がわからなくて、胸にぽっかりと穴が空いたようだった。  しばらく立てずに、泣いていると――。 「雁居!」  懐かしい声にぱっと顔を上げる。  同じ年位の男の子が、慌てた様子でハンカチを差し出していた。  ぱちりと目が合う。 (あっ……!)  その時、膨大な記憶が頭の中になだれ込んできた。  あの夢は、夢じゃなかったんだ! 全部ほんとに起きたこと! 「透君――!」  思わず透君の胸に飛び込んで、わんわん泣いた。透君は驚きながらも優しく受け止めてくれた。 「ごめんね! ごめんね! 私のせいで辛い目に遭わせて――!」 「泣くなよ雁居、俺は辛かったとは思ってない。そりゃ大変なこともあったけど、お前との日々はかけがえのないものだった」  ますます涙腺が緩む。透君は、私の頭を優しくなでてくれた。 「それにお前が過ごした日々も無駄じゃなかったよ。天帝様にお前を再び転生させて、呪いの雨を晴らしてくれるようにお願いしたんだけど、……お願いせずともお前の生前の功徳で転生には充分だったんだ」 「えっ……?」  思わず透君を見上げると、彼は優しく笑った。 「全部雁居のおかげだよ。よく頑張ったな」 「――っ」  透君は本当に私を泣かせる天才だと思う。  聞けば透君は太陽の神様になったらしい。今ここにいる透君はその化身なんだそうだ。  ううん、なんだっていい。生きていてくれてよかった。  透君は私の顔を覗き込んで笑った。 「それで雁居。……太陽は見れたか?」  絶望のまま死にゆこうとしていたあの時、透君が泣きながら発した問い。  あの時とは違う。私は満面の笑みを返した。 「うん! 透君と同じ太陽を見ているよ!」  ――あなたと同じ世界を見たい。それが前世から続く、私の願い。
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