4人が本棚に入れています
本棚に追加
16.新たな世界
「天帝様、俺は神になったんですよね」
『ああ、役目を持たぬ神だがな』
「ならば俺にお役目を下さい。俺は太陽神になりたいのです」
『……いいのか、これまでのように数百年ではすまないぞ。地球が果てるまでお前は生き続けなければならない』
「構いません。雁居や皆を助ける為だったのならいくらでも耐えられます」
『……わかった。役目を負わせる代償に何でも願いを言いなさい』
「願いは2つあります。1つは壊滅した地球を元通りに再生すること」
『言われるまでもない。了承した。それでもう1つは?』
「……もう1つは――」
△▽△
雀の鳴き声で、ぱちりと目が覚めた。
(私は、誰だっけ――?)
思い出そうとぷるぷると頭を振る。
(ええと、私は雲野雁居。雲野家の末っ子で、退魔師……だよね?)
正しいのになぜか確信が持てない。
何か壮大な夢を見ていたせいだ。
私は幻の雨しか見えない女の子で、日々を鬱々と過ごして、幼馴染の男の子に散々迷惑をかけていた。
それで大冒険をして、竜になって――。
(そこから、どうなったんだっけ?)
そこでバッサリと夢の記憶が断ち切られている。でも必ず思い出さなければいけない気がした。
誰か忘れちゃいけない人がいる。
「……透君」
はっと今自分の口から出てきた言葉に動揺する。なぜか懐かしい響き。だけど、知らない名前だ。
「透君って、誰なんだろう?」
お兄様に見送られて学校に向かう。
今日も6月の湿気でじわじわと蒸し暑い。でも空は――。
「ああ、晴れている――」
仰いだ空では太陽が優しく陽光をふりまいている。
なぜか涙が溢れた。いつも見慣れている太陽なのになんでだろう。まるで……諦めていた夢が叶ったかのよう。
耐え切れず、道端にかがみこむ。ハンカチで拭っても拭っても、流れる涙は止まってはくれない。
(嬉しいけど、悲しいんだ……)
同じ太陽を一緒に見たかったあの人が、ここにいないから。
でも、肝心のあの人がわからなくて、胸にぽっかりと穴が空いたようだった。
しばらく立てずに、泣いていると――。
「雁居!」
懐かしい声にぱっと顔を上げる。
同じ年位の男の子が、慌てた様子でハンカチを差し出していた。
ぱちりと目が合う。
(あっ……!)
その時、膨大な記憶が頭の中になだれ込んできた。
あの夢は、夢じゃなかったんだ! 全部ほんとに起きたこと!
「透君――!」
思わず透君の胸に飛び込んで、わんわん泣いた。透君は驚きながらも優しく受け止めてくれた。
「ごめんね! ごめんね! 私のせいで辛い目に遭わせて――!」
「泣くなよ雁居、俺は辛かったとは思ってない。そりゃ大変なこともあったけど、お前との日々はかけがえのないものだった」
ますます涙腺が緩む。透君は、私の頭を優しくなでてくれた。
「それにお前が過ごした日々も無駄じゃなかったよ。天帝様にお前を再び転生させて、呪いの雨を晴らしてくれるようにお願いしたんだけど、……お願いせずともお前の生前の功徳で転生には充分だったんだ」
「えっ……?」
思わず透君を見上げると、彼は優しく笑った。
「全部雁居のおかげだよ。よく頑張ったな」
「――っ」
透君は本当に私を泣かせる天才だと思う。
聞けば透君は太陽の神様になったらしい。今ここにいる透君はその化身なんだそうだ。
ううん、なんだっていい。生きていてくれてよかった。
透君は私の顔を覗き込んで笑った。
「それで雁居。……太陽は見れたか?」
絶望のまま死にゆこうとしていたあの時、透君が泣きながら発した問い。
あの時とは違う。私は満面の笑みを返した。
「うん! 透君と同じ太陽を見ているよ!」
――あなたと同じ世界を見たい。それが前世から続く、私の願い。
最初のコメントを投稿しよう!