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第四章 月の光
その日の夜更け。街の住人がみな眠りについた頃。オモイカネはこっそりと宿を抜け出して、街の中をうろついていた。満月の光が街を照らす。周囲に気を張りながら、昼間、魔女が焼かれた広場へと辿り着く。そこから更に、周囲を見渡して歩いて行く。そして辿り着いたのは、街外れにある草原だった。
その草原の片隅に、月の光も返さない真っ黒ななにかが打ち棄てられているのを見つけた。その黒いものに、オモイカネは声を掛ける。
「君は、天国へは行きたくないかい?」
すると、黒いものから影が立ち上がった。その影は言葉にならない鳴き声を吐き出しながらゆらゆらと揺れる。それを見たオモイカネは、鷹揚に微笑んでこう言った。
「僕の権能で君たちの神と交渉してあげよう」
それから、周りを見渡してこう続ける。
「他にも天国に行きたい子は僕についておいで」
すると、草原のあちこちからいくつもの影が現れ、鳴き始めた。
「今回は、魔女として焼かれた彼女がなんとなく気に入ったから特別だ」
オモイカネは右手をすっと上げて満月を指さす。すると、一筋の一際明るい光がその場に降りてきた。その光を、まるで階段のように一段ずつ登っていく。草原に現れた影達もその後に続いた。
彼らがどれだけ高いところまで登った頃だろうか。ふと、漂う雲が満月を覆い隠すと、光を登っていた彼らは全て姿を消した。
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