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プロローグ
飲み込まれそうな暗闇の中を、ジェシーは恋人のポールの腕にしがみついて歩いていた。懐中電灯一本を片手に、ただ足元を照らして進む。木の葉が擦れる音すらもしない。月明りが僅かに照らし出すのは、そびえ立つ観覧車やジェットコースターのシルエットだ。ジェシーは今にもそれらの重圧に押しつぶされそうな心地がした。
ここは廃園になったテーマパーク。かつては栄華を極めた遊園地も、時代の流れとともに客足は遠のき、人も訪れぬ廃墟と化してしまっていた。
本当はすぐにでも帰りたい。しかしそんなジェシーをよそにポールはかっこいいところでも見せたいのか、どこ吹く風といった顔で、
「ほら、な? 大丈夫って言ったろ? 何もいないって」
とうそぶいた。
「冗談じゃないわよ! ほんとに無理。ねえ早く帰ろう?」
ジェシーは本気で怒鳴った。
「何だよ怖がりだな。せっかくここまで来のにさあ……。あっ、あそこにいいとこがあるぜ? じゃああそこでちょっと休んでから帰ろうよ」
ポールが懐中電灯で先の建物を照らした。
正面入り口までたどり着くと、その廃墟の壮大さに改めて驚かされた。
「ワーオ」
と口笛を吹いてから、ポールは入口の上の看板を一文字ずつ照らしていった。
『ホーンテッド・ハウス』
ゆっくりと読み上げたジェシーは、身震いしてポールの腕により一層強くしがみついた。
「ちょっと冗談でしょ! 絶対嫌よ! 寄りにもよってお化け屋敷なんて!」
どうやらここはお化け屋敷のようだ。さすが有名なテーマパークだっただけはある。建物の大きさからでもわかる。かなり本格的なお化け屋敷を作ったようだ。
ポールは肝試しが大好きだ。心霊スポットの雑誌は部屋に山積みにされているし、自身のブログで訪れた心霊スポットのレポを書いている。ここもかなり有名な心霊スポットで、ポールはいつか絶対訪れたいと言っていた。
今日夜景を観に行こうとポールにドライブに誘われ、ジェシーはウキウキした気持ちで誘いに乗った。しかしまさかこんなところに連れてくるとは……。
「私が怖がりなの知ってるでしょ! 信じられない!」
ポールは呆れたように首を横に振った。
「僕の方が信じられないよ。せっかくこんなに面白いところに来たのにさ。じゃあ君一人で帰ればいいよ。僕はもうちょっと探索するからさ」
ポールは躊躇せずまっすぐ進みだした。
ジェシーはこんなところに一人にされてはかなわないと、しかたなく彼について行った。
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