キャラクター紹介①

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 「ははは、今回も大成功だったね」  小鳥のさえずりが聞こえ始める明け方、館の住人たちはロビーに集まり盛大な祝宴を開いていた。人魂(ひとだま)がロウソク代わりに館内をいい具合に照らし、もともと備品だったゴブレットを片手にチーンと乾杯し合っていた。 「本日もご愁傷さまで」  彼らの基本的な挨拶である。ここに集まる霊たちはもともと明るい性格の連中ばかりで、死んでからはより一層明るく(・・・)ブラックジョークを言い合うようになっていた。 「勝利の美酒は美味(うも)うございますな」  彼らは味を感じない。ドラキュラだけは生き血をワイン代わりに飲むものの、他の者は基本、雨水を透けた体に流し込む(・・・・)。そうしてそのまま床に(したた)り落ちた水が、ジメジメと湿気を高くし、ますます彼ら好みの環境を作り出す。  やがて昨日のカップルが、手術後の患者のようにそれぞれストレッチャーに乗せられて運ばれてきた。それを見ようとみんな集まり、おおーっと声を上げて覗き込んだ。彼らは生きた人間が大好きだ。 「だから私が申しましたものを。病院ルートは難関だと。最近の若者は人の話をお聞きになりませんから」  オリバーは直立の姿勢から軽く頭を下げた。二人は迷いに迷い、霊安室で気絶してしまっていた。 「あそこは行き止まりでございますゆえ、死ぬしかありません」  霊安室はゾンビの溜まり場だ。二人はさぞ怖かったことだろう。住人たちはゲームオーバーのことを死ぬと表現していた。  みんなが気絶している二人をジロジロと眺めていると、ジェームズが病院ルートの入口から現れた。 「みんなあ! 今日の収穫だ!」  ジェームズはリュックサックを掲げて見せた。それを振っているとジェームズの腕はポキンと曲がった。反対側の手でそれをもとに戻していると、今度はその手首が逆側に反れた。  ジェームズが登場すると、拍手喝采で迎える者、(ひざまづ)く者、飛びつく者と、みなそれぞれに敬意を示した。ジェームズは実体型の幽霊で、カリスマ性を持ち合わせ、ここのリーダーを務めていた。 「ありがとうありがとう。さあお楽しみの下界の情報だ。といってもこの男は相当の心霊マニアみたいで、持っていたのは『死ぬまでに行ってみたい心霊スポット100選』なんて雑誌だけどね。死んだら彼にはぜひ仲間に入ってほしいね……さて、雑誌の中身だが、ここのことも書いてあったよ! 『廃墟と化した遊園地。今でも夜な夜な笑い声や絶叫が聞こえるという。遊び足りない子供の霊が、未だにそこで遊んでいるのだろうか。しかし中にはメリーゴーランドに乗った騎士や、コーヒーカップでお茶をする貴婦人を見たといった目撃情報もあり、信ぴょう性にかけるのも事実である。ゆえに編集個人としては、心霊スポットとしてより、もう一つの面を評価したい。それは園内のお化け屋敷にある。ここのお化け屋敷は完成度が高く、評判も高かったという。その館が今も当時のまま残っており、特にホテルを模したルートがカップルに人気であり、夜な夜な聞こえる声はもしかしたら彼らが(あえ)いでる声かもしれない……』……なんじゃそりゃ」  ジェームズは読み終わると素っ頓狂な声を出した。 「道理で最近カップルのお客さんが多いわけか」  するとジェームズの隣にいた、甲冑を着た騎士が首を横に振った。 「やれやれ、有名になるのも困ったものですな」 「品がないのよ。最近の若者は。私が生きていた頃は女性はもっとおしとやかでしたわ。自分から殿方の腕に絡むだなんて、そんなはしたないことできませんでしたことよ」  続いて婦人がそう言うと、コーヒーカップを口に寄せた。もちろん中身は水である。  現代の若者のイチャイチャぶりに嫉妬した婦人を見て、ジェームズは思い出したようにリュックを漁った。 「ああ、そういえばもう一冊本があったよ! みんなこっちの方が好きだろう。『女性が喜ぶ飛び切りのサプライズ』 勉強熱心な彼氏だね」  みながおおっと感心したような声を出し、俺にくれ俺にくれとジェームズに詰め寄った。ジェームズは本を投げて取り巻きを追っ払った。ここの霊は脅かすのも好きだが、色恋沙汰も好物である。 「まったく。みな世俗的で参りますな。ゴーストたる者、もっとプラトニックであってほしいものです」  嘆かわしいと言わんばかりにオリバーはため息をついた。 「(わたくし)など、妻一筋でおりましたのに」 「へえ、あんた、昨日この娘にちょっかい出してたのを忘れたのかい?」  オリバーが振り返ると、メイド服姿のおばさんが腰に手を当て立っていた。 「な、なんのことですかな。ハニー。何か証拠が……」  オリバーが言い終わらないうちに、スコープが目から壁に映像を映し出した。スコープはビデオカメラに憑りついた幽霊で、レンズの部分が目玉になっている。昨日カップルの女が転んだのはスコープに躓いたせいだった。 「私ごときでよろしいのでございましょうか? 彼氏が見ていらっしゃいますのに」  昨日の映像が流れると、オリバーは冷や汗を流した。 「まったく、死んでもその女癖は治らないんだから!」 「こ、これはただの挨拶だよ、ハニー。アイタッ。ちょ、ちょっと許して……」  ポカポカと叩かれながら、オリバーたちはスルスルと流れるようにロビーから消え去ってしまった。  ジェームズは呆れながら彼らを見送ると、カップルの二人の処置を指示した。 「キュリー、彼らを車まで運んどいてくれ」  ドラキュラはニヤリと笑って承諾した。その態度にジェームズはドラキュラに釘を刺した。 「いいか、絶対血を吸っちゃダメだぞ。スコープ。一緒についてって監視してくれ」  ドラキュラは肩を落とした。それから二人を両脇に抱え玄関から飛び立った。  ジェームズはそれから宴会の輪へ入ろうと一歩踏み出そうとした。すると背後で回転ドアが押される音がした。 「キュリー、血はやれんって言ったろう? 何回頼んでも無駄だぞ」  そう言いながらジェームズが振り返ると、そこには全身から水を滴らせた男が立っていた。
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