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入って来たのは雨に打たれたようにビショビショの男だった。その男に皆の視線が一斉に注がれる。
「おい、実体型だぜ」
霊たちはザワザワし始めた。
ゴーストの中でも実体、すなわち透けていない体を持った霊は強い思念を持って死んだ霊だとされている。そのため霊力や意志が強く、霊たちの間では一目置かれた存在だ。
そしてゴーストカーストとでもいうべきか、その次に透明の霊体型、生前執着のある物に憑りついた憑依型、そして漠然とした人間の意識である人魂に大まかに分けられる。
つまり目の前にいる霊は実体型なので、かなりの力の持ち主だということだ。
「あら、とってもハンサムな方じゃない」
持っていたコーヒーカップを落として貴婦人がポツリと呟いた。目がハートになっている。男の顔には右頬にフジツボがびっしり付き、左目は海藻で隠れていて不気味だが、それでも整った顔つきだと分かる。
ジェームズは一歩踏み出し、手を差し出した。
「やあ、よく来たね。ここは愉快な霊たちのたまり場なんだ。これからよろしくね。ところでびしょ濡れみたいだけど、人知れず殺されて雨ざらしにでもなっていたのかい?」
ジェームズは一気に捲し立てたが、男は意に介さず自らのペースでゆっくりと周りを見回し、それから低い声でしゃべり始めた。
「……ここがかの有名なホーンテッド・パークかい? 残念なお報せだが、ここは取り壊されるらしいぜ」
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