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タータータータタタンタラッタラララン……。
チャイムが鳴る。この学校のチャイムは独特だ。しかしこの学校にしか通ったことがないサトシは、昨日の映画を観るまで別段違和感を感じていなかった。劇中鳴った学校のチャイムを聞いて、初めて自分の学校のチャイムが特殊だということを知った。
「え、この学校のチャイムおかしくない?」
昨晩の父との会話が思い起こされる。
「いや、普通の学校はこれだよ。キーンコーンカーンコーンってね。お前の学校が特殊なんだよ。授業参観のときも思ったけど」
チャイムは始業と終業、そして下校時間と三種類ある。今鳴ったチャイムは終業、それも昼食を告げるチャイムだった。
サトシたち4人は机を引っ付けて給食の準備を始めた。
「そういえば、昨日の映画観たか?」
チャイムで思い出したサトシが問いかけた。
「ああ、テレビでついてたからついつい見ちゃったよ」
ユウキがさっそく食いついてきた。
「トイレの花子さんだって。古いよなあ」
サトシは率直な感想を言った。昨日の映画はあまり怖いと感じなかった。
「そうか? 俺は結構怖かったんだけど……」
「ええ? お前ビビりかよ。俺は全然怖くなかったわ。現実味がないじゃん。ぼっとん便所とかさあ。俺、和式ですらしたことがないよ。父さんもぼっとんは見たことないってさ」
それはたしかにそうだとユウキは大きく頷いた。
「まあそうだけど。サトシ、強がんなって。女子が見てるからってさ」
ユウキはチラリと横目で女子の方を見やった。ミナミとメイが机をつけながら楽しそうにしゃべっていた。
サトシは頬が少し紅潮するのを感じたが、平然を装ってユウキと、怖がり、カッコつけと言い争いをした。サトシはたしかにいつもより大声でしゃべっていた。
「ぼ、僕は怖かったよ」
レオはそんな二人を気にする様子もなく、身震いしながら口を開けた。
「あの映画を見たあとすぐにトイレに行きたくなっちゃったんだけど、怖くてなかなか入れなかったんだ。で、ずっとトイレの前で足踏みしてたらお母さんに頭を叩かれたよ」
ユウキは真剣な面持ちで耳を傾けていた。
「それで漏らしちゃったんだろ? お前んちの母ちゃん、紫ババアみたいだもんな」
ユウキは両手首を胸の前で折り、白目を剥いて舌も出して見せた。
「あの顔で『赤い紙と青い紙どっちがいい?』って聞いてくるんだろ? で、どっちにしたんだ? 漏らしちゃって拭いたんだろ?」
「それは紫ババアとは別の話だよ! それに僕が我慢してたのは大じゃなくて小だよ!」
レオはムキになって言い返した。母親が紫ババアに似てるのは否定しないのかと呆れながら、サトシは二人のやり取りをやれやれといった思いで眺めていた。するとマコトが本を読みながら口を出した。
「くだらない映画だったね。なんの科学的根拠もない空想上のストーリーだったよ」
レオとの言い合いをやめ、ユウキはマコトに標的を変えた。
「ふうん。いっつも科学科学言ってるくせに、お化けの映画なんか見てんじゃん。『学校の七不思議』なんてタイトルの映画をさ。本に顔隠しながら恐る恐る見てたんだろ。……そしてお前もちびってたんだろ。大を」
三つ巴の言い争いが始まった。やれ科学の観点から見ていただけだのやれ漏らした漏らしてないだの大だの小だのと、サトシのグループはひと際騒がしくなった。
そんなこんなでいつも通り盛り上がっていると、給食当番の堤が勢いよくドアを開いた。走ってきたらしく、肩で息をしている。
「おい、昨日1年生のやつがランドセルに手を噛まれたらしいぞ! 学校の怪談だ!」
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