赤いランドセル

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 サクラちゃんは意外にも饒舌で、道中色々な情報を教えてくれた。  今日休んでいるのは幼馴染の三村マサアキ君。昨日放課後遅くまで残っていて、下校のチャイムを聞いて帰ろうとしたところ、赤いランドセルに噛みつかれたらしい。サクラちゃんは家が近く、帰り道が同じなので、教室でマサアキ君の仕事が終わるのを待っていたという。 「でも、途中で女子のいきもの係のカホちゃんに呼ばれちゃって。マー君がどっかに行っちゃったから、代わりに手伝ってって」  その後ウサギ小屋で掃除をしていると、マサアキ君が叫びながら校門から出ていくのをサクラちゃんは見たという。そしてすぐに追いかけたものの、物凄い勢いで走って行ってしまったということだ。 「マサアキ君は仕事をサボってどっかに行っちゃってたの?」  サトシは不思議に思い、質問した。 「じゃあランドセルに噛まれても自業自得だな」  ユウキが冷やかしを入れた。 「初めは私も一緒にウサギの世話をするって言ったんだけど、マー君に来んなって言われちゃって。じゃあいきもの係の仕事が終わるまで待ってようと思って、教室で本を読んでたの。途中でプールの方に歩いて行くのが見えたんだけど、いつもついて行こうとすると怒るから、そのまま本を読んで待ってたの。最近休み時間とか放課後とか、こそこそどこかに行くんだけど、全然教えてくれないの」  マサアキ君が何を世話しているのか気になったが、それがランドセルと関係あるのかはサトシたちには分からなかった。さらに本と聞いて黙っていられなかったマコトが矢継ぎ早に質問を繰り出し、会話はランドセル事件からどんどん逸れていった。 「どんな本を読んでるの? へえ。その本はどんな本なの? ジドウショ? ふうん。僕はもっぱら科学の本を読んでるんだ。一年生の頃から『科学の力』を定期購読してるよ。敷居が高ければ、『小学生の科学』なんてオススメだよ。『科学の基礎』を勧める人もいるけど、入門書としては僕は前者のほうが好きだな」  サクラちゃんが困ったような顔つきになってきたので、サトシは助け船を出した。 「そういえばサクラちゃんのランドセルも赤だね」  サクラちゃんは頬を赤らめた。 「サトシ、変なこと言うなよ。サクラちゃんのランドセルがバケモノだって言いたいのか?」  ユウキは遠慮なくサクラちゃんのランドセルを開けて確かめた。 「噂ではここに牙があって、それから目もついてたんだろ?」  少し恥ずかしそうにしながら、サクラちゃんはサトシの指摘に答えた。 「実は、私のクラス、赤いランドセルは私だけなの。一学期はそれで少し意地悪されたこともあるの。赤なんて古い。他の女子はみんなピンクだって。特に男子にからかわれて。でもマー君が助けてくれたの」 「俺らのクラスは女子でも水色とか紫とかいるのにな。全員ピンクなのは珍しいな」  ユウキが両手を頭で組み、へえと感心したように言った。 「だから、今日先生に何か知らないか聞かれちゃって。赤いランドセルは私だけだから……」  サクラちゃんは少し泣きそうな顔になった。先生に問い詰められているのを見た男子がまた(はや)し立てたという。少し気まずい空気になりながら一行は三村君の家の前にたどり着いた。
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