赤いランドセル

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赤いランドセル

 少年は廊下を走っていた。(かかり)の仕事が長引き、帰りの支度(したく)をするために教室へと急いでいたのだ。  もちろん普段ならこんなに遅くはならない。しかし世話をしている動物の様子がおかしくなり、放課後遅くまで残るハメになったのだ。少年はいきもの係だった。  少年は動物が好きだったため、いきもの係に立候補し、じゃんけんにも勝って見事に人気のポストを勝ち取った。しかし毎日朝も放課後も欠かさず動物の世話をしなければならず、責任が重い仕事だった。さらにいきものである以上イレギュラーな出来事も多く、休み時間や放課後に時間を取られることが多かった。少年はいきもの係になったことを少し後悔していた。  いつもより薄暗い廊下は、必然とどこか寂しい印象を少年に植え付けた。怖くないと言い聞かせてはいるものの、少年は無意識に駆けていた。  今日は遊びに行けないなと憂うつなため息をつき、代わりに早く帰ってゲームでもしようと考えながら、少年は教室の扉を開いた。カーテン越しに夕日が差し込んでいる。オレンジ色に染まった教室は、廊下の薄暗さよりも哀愁を感じさせた。少年はその景色に心ここにあらずといった様子でしばらく突っ立っていたが、下校時間のチャイムで我に返った。  タンタラッタッタ~ンタララッタッタンタタタ……。  この学校のチャイムは独特だ。何かの曲というわけでもなく、リズムすらまったくない。それがかえって、児童たちには心に残るメロディーとなっていた。 「下校時間になりました。校内に残っている生徒は、早く帰りましょう」  そのあとに下校を促すアナウンスが流れると、少年はランドセルを背負った。そして後ろのドアから出ようとを振り向くと、ある異変に気が付いた。  ロッカーに赤いランドセルがポツンと入れられている。残っているクラスメイトは自分だけだと思っていた。少年は誰が残っているのだろうと首を(かし)げ、ランドセルの名前を見ようとロッカーから取り出した。  すると手にビリッと微かな痛みが走り、思わずランドセルを床に落とした。ランドセルは蓋が開き、それを見て少年は驚愕した。教科書を入れる口の部分にはいくつもの牙が剥き出し、獲物に欲しているかのようにパクパクさせていた。さらに逆三角形の目がこちらを意地悪そうに見つめ、鋭い眼光を放っていた。  少年はショックと恐怖でパニックになり、泣き叫びながら教室をあとにした。背後では赤いランドセルがケッケッケと笑い声を上げていた。76dd578a-6187-4819-a8ff-127f99af89d8
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