トイレットペッパー大戦争

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 神梨夫婦は大変なことになっていた。夫の真司が床にへたり込み、その真司を妻の松子がトイレットペーパーの筒を片手に厳しすぎる表情で上から見下ろしている。真司は俯き松子を見ようともしない。松子が筒を突き出し真司に言った。 「アンタ!あれほど使うなって言ったのになんで使ったのよ!」  そう言うなり松子は部屋のゴミ箱を持ち上げ、ゴミ箱の中身を残らず床にぶちまけてしまった。床にはポテトチップスの袋、チラシ、そして今やなかなか買えない貴重品となったトイレットペーパーの使用品が散らばっている。あたりになんかイカ臭い匂いが立ち込め、真司と松子は少し顔を赤らめ沈黙した。しばらくの沈黙の後松子はクシャクシャに丸まったトイレットペーパーのクズ紙を拾った。運の悪いことにそれは湿っていた。つい先ほど真司が興奮を抑えるために使用したものだったからだ。松子はクズ紙を真司に投げつけて叫んだ。 「あれほど……トイレットペーパーがないって言ってるのに、こんなことに……こんなことに!」 「うるせえな!まだ在庫あると思ったから使ったんだよ!トイレ行きたかったらコンビニ行けばいいだろ!大体なんでトイレットペーパーじゃなきゃダメなんだ!ティッシュ使えばいいじゃねえか!」 「バカ野郎!そのティッシュがないから苦労してるんじゃないの!大体アンタティッシュがないからトイレットペーパーでしたんでしょ!こんなにいっぱい!何観てたらこんなに出るのよ!」  真司はもう恥ずかしさでいっぱいになり松子の説教のもう耐えられなくなった。 「全部お前が悪いんだろうが!ティッシュが無くなってきたからしばらく夜はしないとか吐かすからだよ!だから耐えられなくてスマホのエロ動画で処理したんじゃねえか!それでティッシュがなくなったから仕方なくトイレットペーパーで処理してたんだ!まさかトイレットペーパーまでなくなってるなんて思わなかったんだ!お前のせいだ!お前がしてくれればトイレットペーパーぐらい十分残っていたはずなんだ!」  夫のあまりにもバカバカしい言い訳に松子はどう反応していいかわからなかった。真司の自分に対するあまりにも中学生じみた要求に恥ずかしさと夫への幻滅を同時に味わったような妙な気分になった。しばらくの沈黙の後、松子はワナワナと体を震わせながら真司を指差し叫んだ。 「アンタバカだってことはわかってだけどここまでバカだったとは思わなかった!今すぐトイレットペーパー買ってこい!トイレットペーパー買ってくるまで家に帰ってくるな!!」  というわけで着の身着のまま追い出された真司であったが、今現在夜の9時過ぎておりドラッグストアは殆ど閉まっていた。しかしトイレットペーパーを買わなければ松子は家に入れてくれないだろう。ああ、どうしたらいいのだろうと真司は悩んだ。しかし、悩んでもどうしようも無い。真司はとりあえず空いているドラッグストアを探して街を駆け回ったのである。  一方松子は自分でぶちまけたトイレットペーパーのクズ紙を拾いながら真司の先程の真司の言ったことを思い返していた。お前がしてくれなかったからだと真司は言っていた。付き合ってた頃からずっとこんな感じだった。そんな真司に呆れながらも可愛く感じ、犬みたいにがっつくような真司のプロポーズを受け入れたのだった。二人は最初のうちは避妊具を使っていたが、しかし真司のがっつきのせいですぐなくなってしまうので、もう子供ができてもいいからそのままでやろうという事になったのである。松子は真司の顔を思い浮かべて、時計を見るともう10時近くになっていた。さすがに言い過ぎたのかも知れないと松子は思った。あんな呆れたバカだけどやはり大事な夫なんだし、トイレットペーパーは明日また買いに行かせればいいではないか。そう思い彼女は夫を呼び戻そうと彼のスマホに電話をかけた。しかし、電話は繋がらなかった。どうしたのだろう。アイツまさか本気でトイレットペーパーを探し回っているのか。するとドアのピンポンが鳴った。松子はやっぱり真司はトイレットペーパー探しもしないでブラブラしてただけなんだと思い。入れてやる代わりに怒鳴りつけてやろうと玄関に行きドアを開けたが、そこに夫ではなく隣のおばさんがトイレットペーパーが入った袋片手に立っていたのだった。 「夜分失礼しますね、ちょっとトイレットペーパー買いすぎちゃって余ってるのよかったら使ってくれる?」  と松子にトイレットペーパーの袋を差し出した。地獄に仏とはまさにこのことであった。松子はありがとうございます!とおばさんに何度も礼を言った。おばさんはそんな松子に「あなた達若いからいろいろ大変ね!ホホホ!」と励ましたのだった。  それから、松子は真司の帰りをずっと待っていたが、真司はなかなか帰ってこない。電話の返事もない。松子は心配になり探しに行こうとし玄関の扉を開けたその時である。真司が申し訳なさそうにそこに立っていたのだ。松子は思わず微笑んだがやっぱりきちんと叱っとかなければ思い真司を睨みつけると、真司が何かを出してきたではないか。なにこれ?と松子はそれを見るとそこにあったのは箱のティッシュだった。 「ゴメン、ドラッグストア全部閉まってて、仕方がないからコンビニも全部探してやっとティッシュ箱見つけたんだ。やっと出せ!とりあえずトイレットペーパーのかわりにこれ使ってくれ。俺、我慢するよ。やっぱり俺のカミさんにはいつも綺麗でいて欲しいからさ」 「うん、わかった。だけど今日は我慢しなくていいよ。さっき貰ったんだ。これ……」  と松子は先ほど貰ったトイレットペーパーを真司に見せる。真司は感動のあまり涙を流しながらこう言った。 「必要なものは全部揃ったな。さぁ今夜はティッシュ使いまくろうぜ!」 「ダメよ!こういう事は計画的にヤらなきゃいけないんだから!」 「チエっ、相変わらず管理厳しいんだからな!」  布団の中で松子は真司に言った。 「真司いい?毎日1回してもいいけど、終わった後はティッシュ1枚で拭いてね。今までみたいに何枚も使っちゃダメなんだから!それとトイレットペーパーは絶対使用禁止よ!じゃなくて一人でするのは絶対禁止なんだから!私夫婦でしょ!これからはなんでも二人でしましょうね!」  真司はうなずき、松子を抱き寄せ熱いキスを始めたのだった。  〈完〉  
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