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「じゃあこのメモの意味、わかりますか?」
リオが聞くと、メイスはぎくりと目を泳がせた。
「……生きてたらすぐわかったんだけどな」
どうやら皆目見当もついていないらしい。
でも、そりゃそうか。知恵の女神の加護を受けた当人がつくった謎は、ただでさえ難しいはずだ。意識がもやもやとしたままの、幽霊状態のメイスに解けなくても仕方がない。
リオは手元のメモをもう一度見る。
“牡牛、白鳥、鷲の最初の
平和と戦いをつかさどる女神の
鎧を授けし知恵の”
このメモを手にとって、メイスの幽霊が見えるようになった。ということは、きっとこのメモは彼の死となにか密接な関わりがあるはずだ。
リオはすっと顔をあげた。
「……もし、死んだ時のことがわかったら、メイスはここからでられますか?」
まっすぐにメイスを見てたずねる。
ここからでたら、家族のもとに帰って、ちゃんとお別れができるだろうか。
「ああ、きっとね」
「……ちゃんと天国にいけますか?」
リオがそう聞くと、碧紺の瞳がふわりとやさしくなった。
「もちろん。僕は生まれてこのかた、悪いことをしたことがないからね」
メイスは得意げにほほえんだ。
「そうでしたっけ……?」
リオは知っている。メイスは工作好きで、寮の食堂のトースターを盗んでは改造したり、爆発させたりしていたこと。プラネタリウムをつくろうとしてガラクタを集めては、ライトの配列のせいで火事になりかけたこと。意地悪な先生に仕返しをしてくれた、“あの日”のこと。
でもたしかに、どれも悪いことじゃない。メイスがくれた楽しい思い出だ。
「なんだい、その顔は。一体いつ僕が悪いことしたって?」
「ふふ。いや、なんでもないです。……とにかく、」
リオはメモを自分のポケットにしまった。
「ぼく、手伝いますね。メイスがちゃんと天国に行けるように」
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