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そしてメイスがきちんと弔われて、みんなが彼に別れを言えるように。
リオは、メイスに“あの日”の恩返しをしなくてはならないとずっと思っていた。今、その時が来たのだ。
決意にみちたリオの顔をみて、メイスは目を細めて笑った。
「やさしいじゃないか。ありがとう、リオ。期待してるよ」
握手のひとつでもしたいところだったけれど、メイスが透けてしまうのでそれは叶わなかった。
「……メイス、また明日」
「うん。また明日、リオ」
リオは旧科学室の電気を消した。教室はあっという間に真っ暗な闇にのみこまれて、メイスの姿も見えなくなった。
——さっきまでの会話は、幻ではなかったか。本当に存在したのだろうか。
まるで夢のように、覚めた瞬間からどんどん忘れていってしまう気がして、リオはポケットにいれたメモを確かめるように指先でぎゅっと握った。
メイスの幽霊はたしかに旧科学室にいたのだ。実際ぼくは、この暗号を解いて彼をここから解放しなくてはいけないのだから。
ゴーン、ゴーンと、中央校舎を囲む堀の向こう側のチャペルから、鐘の音が響いた。午後六時を知らせる鐘だ。いつのまにか寮の門限がちかづいている。
決意を胸に、リオは足早に寮へとつながる渡り廊下を進んだ。
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