一. メイスの幽霊

3/12
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ
 ぼうっと旧科学室を眺めていると、この場所に詰まった天文部の思い出が次々とよみがえってくる。プラネタリウムや望遠鏡を自作しようとしたことや、たまに失敗して怒られたこと、みんなで星座や神話の本を輪読したこと、この南西の大きな窓いっぱいの星空を眺めたこと。  でも、もう失われてしまった。寂しい気持ちがじわりとこみ上げる。  それをかき消そうと、リオは箒がけをするために立ち上がった。教室の隅から隅へ、たまった埃や塵を力いっぱい掃きとっていく。からだを動かしていれば、感傷的な気持ちもいくらか良くなるものだ。  と。カサ、と音がしてリオははっと足元をみた。古い天体望遠鏡の根元にひっかかった紙切れが、ほうきの先と擦れていた。指先で拾い上げると、それはかなりくたびれたメモ書きだった。  この旧科学室は天文部以外使っていないので、だれかの落し物とは思えない。リオは不思議に思ってそのメモを開いた。そしてはっと息を飲んだ。  “牡牛、白鳥、鷲の最初の  平和と戦いをつかさどる女神の  鎧を授けし知恵の  ——メイス・ショールズ”  その署名を見た途端、心臓がどきんと跳ねた。  それは確かに、二年前に学校を辞めたメイスの署名だった。見覚えのある美しい字だ。  一体いつ書かれたものだろう。この文章は一体、どういう意味だ。ぱっと読んだだけではまったくわからない、まるで——暗号みたいだ。 「おお。これはまた、ずいぶんと綺麗になりましたねえ」  そのとき、とびらの前でやさしい声がした。はっとしてそちらを見ると、天文部の顧問であるグレンジャー先生がいた。
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!