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彼は物理学の教師で、リオが住む寮の寮監をしていたこともある。以前は授業、天文部、寮、と毎日顔をあわせていた。しかし先生は定年が近づいているらしく、寮監の職は去年をもって退任していた。今は会っても週に三回ほどだ。
リオは反射的に、メモをポケットのなかに閉まった。
「は、はい。やればできるものですね」
「本当に。あんなにもので溢れていた場所を、よく一人で片付けましたね。さぞ大変だったでしょう」
グレンジャー先生は感心して教室を見回している。リオはこの大仕事をおえるまでのことを思い出し、小さくため息をついた。
「はい。はじめは埃まみれで、喘息になるかと……」
この旧科学室は天文部の活動場所として以外は使われていないので、清掃員も来ない。リオはちょくちょく旧科学室に一人で来ることはあったものの、掃除はしていなかったので、長年の塵が大量にたまっていたのだ。
それを一日で掃除した自分は、われながら、結構えらいのではないか。
「そうでしょうねえ。ちなみに僕は天文部がきちんとここの掃除をしているところ、ここ十年で見たことがありません」
「……十年分のほこりをぼく一人でかぶるって、なんかちょっと不公平じゃありません?」
するとグレンジャー先生が目尻にたっぷりとしわを寄せて笑った。
「そうですねえ。じゃあお礼と言ってはなんですが、欲しいものは持って行っていいですよ」
先生は旧科学室の本棚や、窓際の天体望遠鏡を手で示して言った。
「えっ。いいんですか? 学校の経費で買ったものもあるんじゃ……」
「いいんです。きみが好きなものを持って行きなさい。部を存続させられなかった、せめてものお詫びです」
グレンジャー先生がすこし申し訳なさそうにほほえむので、リオはあわてて否定した。
「いえ、先生のせいじゃありません。どうせ、ぼく一人しかいなかったんですから、廃部になるのも当たり前です」
それにリオ自身、部を存続させるための努力はしなかった。
——メイスが帰って来ないのなら、天文部などどうなってもよかったのかもしれない。
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