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「でも、きみは来学期からどうするんです?」
グレンジャー先生は窓際まで歩いてくると、しずかに椅子に腰掛けた。
「ぼくは物理部にでも入ろうかなと」
「おや、それはいいですね」
リオはほうきを壁に立てかけて、グレンジャー先生の側に座った。
「あの、先生は……メイス・ショールズを覚えていますか」
すると先生は一瞬驚いたように目を丸めた。その名前を聞くのが久しぶりだったからだろう。そしてすぐに、懐かしそうに目を細めた。
「もちろん、忘れるわけがありません。きみの一つ上の学年で……もし今も学校に残っていれば、三日後に卒業でしたねえ」
グレンジャー先生はすっと窓の外をみた。先生の白髪が、沈んできた日に透けてまばゆく光った。懐かしさと同時に、切なさも感じられる横顔だった。
「先生は……メイスがここを辞めてどこへ行ったのか、ご存知ですか」
そう尋ねると、グレンジャー先生の表情が翳った。そして戸惑ったような顔をしてリオをちらりと見る。話すべきかどうか、迷っているような顔だ。
メイスが学校をやめた背景には、なにか深刻な事情があったのだろうか。きゅっと心臓が緊張する。
「……このことは、生徒には公表してないけれど、」
グレンジャー先生は静かに口を開いた。
「彼は突然行方不明になったんです。二年前、学期が始まる直前にご家族からそう連絡がありました」
リオは息を飲んだ。行方不明だなんて。彼は転校したものだとばかり思っていた。
「じゃ……じゃあ今も、メイスは見つかっていないんですか」
「はい。ご家族も捜索していますが……おそらくは、亡くなっている可能性が高いと」
グレンジャー先生は悲しそうに顔を伏せた。いつもやさしくおだやかな先生の顔が悲しみに満ちていくのがつらくて、リオはぎゅっと膝の上で拳をにぎった。
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