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「先生、ごめんなさい。つらいことを聞いてしまって……まさか、そんなことになっていたなんて、思わなくて」
「いいえ。でも、彼はあまりに優秀な生徒だったものですから。もし本当にこの世を去っているとしたら、若すぎます。僕が変わってあげたいほどです」
先生は苦しそうに、リオにむかって微笑んだ。リオの心臓はまた、悲しみできゅうと締め付けられるようだった。
メイスとは、またどこかで会えるのだと思っていた。行方不明だなんて、信じられない。信じたくなかった。
グレンジャー先生はしばらくの沈黙のあと、ゆっくり立ち上がった。そして片付けのお礼をもう一度リオに告げ、「好きなものを持っていくんですよ」と念をおして、旧科学室を出た。
その足音は廊下を遠ざかっていき、やがて聞こえなくなった。
リオはぽつんと旧科学室に取り残された。南西の教室に、夕日がどんどん満ちていく。壁が、床が、ぼんやりとしたオレンジ色に染まっていく。もうすぐ夜がくる。
一瞬、ざあ、っと視界にノイズがはしった。オレンジ色の壁を得体の知れないなにかが横切ったようだった。リオははっとして周りを見渡す。グレンジャー先生が戻ってきたのだろうか?
しかし、誰もいない。そもそも期末試験は昨日終わったのだから、中央校舎に人はいないはずだ。いるのは、旧科学室の掃除をしている自分と、先ほどここを訪れ去ったグレンジャー先生だけだ。
そのはずなのに。
この旧科学室のなかに、なにかが潜んでいる。そのたしかな気配に、リオの鼓動がドクドクと早まっていく。額にじわりと汗がにじむ。
ざあっ、と再び何かがオレンジの壁を横切った。リオはびくりとして左右を確認する。何もいない。いないはずなのに。
「——リオ、」
背後で誰かが名前をよんだ。
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