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ひっ、と声にならない息がリオの喉からこぼれた。バッと振り向くと、そこには——メイス・ショールズが立っていた。
豊かな金色の髪。絹のような肌。吸い込まれそうな碧紺の瞳。ばら色の薄い唇。すらりと細長い手足。彫刻のような、絵画のような、かんぺきな姿。
そこにいるのは間違いなくメイスだった。二年前に学校を去った、メイス・ショールズ。
「ッ!?!」
リオは無我夢中で後ずさって、窓際にゴンッと腰をぶつけた。おもわず「痛ぁッ」と声をあげてしまった。
目の前のメイスはというと、きょとんとしている。リオはわなわなと震えて、
「な、んでいるんですか……?!」
と叫んだ。するとメイスは大きな目を丸めた。
「え……リオ、僕が見えるの?」
メイスは本気で驚いているようだ。
いやいや、驚きたいのはこっちだ。
「は……? 見えるもなにも、目の前にいますし」
一体何の冗談だろうか。まさか二日後の卒業式に合わせて、校舎に侵入したのだろうか。いたずら好きなメイスのことだ。きっとそうだ、同級生を驚かせようとしたんだ。行方不明なんて言われていても、結局ケロリと無事だったんだ。
目まぐるしくそんなことを考えていると、メイスが「あはは、」と楽しそうに笑った。リオは久しぶりに見るメイスの笑顔に、懐かしさでいっぱいになって、何も言えなくなった。
しかしそのあたたかな感情はほんの数秒で失われることになる。
「リオ、窓をみてごらん」
言われた通りに南西の大きな窓をみると、いつのまにか夕日は沈み、空は薄紫に染まっていた。暗くなった窓に室内の照明が反射して、鏡のようにリオを映していた。
「……?」
じいと窓を見る。
そこにはあきらかな違和感があった。その違和感の正体にリオはすぐに気が付いた。
——気が付いてしまった。
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