一. メイスの幽霊

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 ひっ、と声にならない息がリオの喉からこぼれた。バッと振り向くと、そこには——メイス・ショールズが立っていた。  豊かな金色の髪。絹のような肌。吸い込まれそうな碧紺の瞳。ばら色の薄い唇。すらりと細長い手足。彫刻のような、絵画のような、かんぺきな姿。  そこにいるのは間違いなくメイスだった。二年前に学校を去った、メイス・ショールズ。 「ッ!?!」  リオは無我夢中で後ずさって、窓際にゴンッと腰をぶつけた。おもわず「痛ぁッ」と声をあげてしまった。  目の前のメイスはというと、きょとんとしている。リオはわなわなと震えて、 「な、んでいるんですか……?!」  と叫んだ。するとメイスは大きな目を丸めた。 「え……リオ、僕が見えるの?」  メイスは本気で驚いているようだ。  いやいや、驚きたいのはこっちだ。 「は……? 見えるもなにも、目の前にいますし」  一体何の冗談だろうか。まさか二日後の卒業式に合わせて、校舎に侵入したのだろうか。いたずら好きなメイスのことだ。きっとそうだ、同級生を驚かせようとしたんだ。行方不明なんて言われていても、結局ケロリと無事だったんだ。  目まぐるしくそんなことを考えていると、メイスが「あはは、」と楽しそうに笑った。リオは久しぶりに見るメイスの笑顔に、懐かしさでいっぱいになって、何も言えなくなった。  しかしそのあたたかな感情はほんの数秒で失われることになる。 「リオ、窓をみてごらん」  言われた通りに南西の大きな窓をみると、いつのまにか夕日は沈み、空は薄紫に染まっていた。暗くなった窓に室内の照明が反射して、鏡のようにリオを映していた。 「……?」  じいと窓を見る。  そこにはあきらかな違和感があった。その違和感の正体にリオはすぐに気が付いた。  ——気が付いてしまった(・・・・)
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